連載4-2/学生主体のプロジェクトの理想と現実。継続のために必要なことは?【広島工業大学】
- odlabo
- 7月10日
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更新日:8月4日
広島工業大学電気システム工学科では、学生の主体性を引き出すために、2024年より「HIT-ALPs」という学生プロジェクトに取り組んでおられます。10のチームに分かれてテーマを決めて、小中学生向けの実験教室やオープンキャンパスでの高校生向けの実験体験など、電気の魅力を伝えるためのさまざまな活動にチャレンジ。自ら考え、行動する機会が有意義であることは学生間で共通認識としてあるものの、活動へのモチベーションにはばらつきがでてきているようです。新しいことを立ち上げることも大変ですが、それを「継続する」ことはさらに難しい。組織にありがちな課題に学生はどのように向き合っているのか?学生が自発的に動き続けるためには何が必要なのか?初代団長のYさん(電気システム工学科4年生)と現団長のSさん(同3年生)に、リーダーとして受け継ぎたい思いと、これからの展望について聞いてみました。

初代団長・Yさん(左)と現団長・Sさん(右)
――YさんはHIT-ALPsの前団長で、Sさんは現団長とのことなので、リーダーとしての活動や思いについても聞かせていただきたいと思います。Yさんは立ち上げメンバーの一人ですが、どういう思いで初代団長を務めていたんですか?
Yさん 前例がない初めてのプロジェクトなので、団長としては、とりあえずみんなで最後までやりきろうっていう気持ちでしたね。僕は大学祭の実行委員もやっていたので、それと比べてしまうのですが、大学祭は開催日がゴールですが、HIT-ALPsにはゴールがないんです。自分たちで新たに計画して、春は小中学生に実験教室をやって、夏にオープンキャンパスで高校生に実験を見せて、その後も何か活動をして…と、自分たちのやる気次第で、できる量が変わるんです。逆に言えば、やる気がなくなってしまった瞬間に、その活動は終わってしまうので、どうやって継続的にやる気を引き出していくかに悩みましたね。
――モチベーションの維持は、社会人にとっても難しいテーマですからね。ちなみにYさんなりにどんなことに取り組んできたのですか。
Yさん 悩んでることを聞いたり、進捗を聞いて、困っていることがあれば「ここまでやってみたらどう?」などと提案したりしました。ただ、継続的にやる気を出させるいいアイデアというようなものは出てこなかったです。なんとかやってほしいと働きかけはしてみましたが、難しかったですね。
――10個も動いているプロジェクトがあれば、継続しなかいチームもあったでしょうが、Yさんの働きかけで、やる気を出したチームもあったのでは?
Yさん 1回なくなってしまったものが復活した事例はなかったんですが、継続的にやってくれたチームはあったので、初年度にしてはかなりよかったのではないでしょうか。
――活動を維持できたチームが残っているというのは、大きな成果ですね。HIT-ALPs1年目の活動を振り返って、立ち上げ当初の「学生の自発性を高める」というねらいに対して、初年度の目標達成度はどれぐらいだと思いますか?
Yさん 今も継続的に頑張ってくれてる人がいるっていうことは、少しは自発性が生まれたということでもあると思うので、到達度は60%くらいだと思います。
――最初はやる気がなさそうだったけど、活動を機に変化したというような人はいるのでしょうか?
Yさん こういう場ができたことで、自発性を発揮できるようになった人はいると思います。ただ、僕の周りにいる立ち上げメンバーなどは、そもそも自発性がある人たちばかりでしたので。Sくんの周りの人など、活動に応募してきた人はどうですか?
Sさん そうですね、そもそも参加すること自体、自発性がある証拠かなと思います。でも、始めは結構フラフラしている印象だった人たちが、いざプロジェクトをやるってなったら自発的に動いていたのは意外でした。僕が誘った友達も今も活動を続けています。本当はこんな人だったんだ、といい気づきの場になりました。
――企業とのつながりをつくるということも活動のねらいの一つだったと思いますが、その点についてはいかがですか?村上先生からは、企業向けに活動状況のプレゼンをしたところ評価が高かったと聞きましたが。
Sさん 採用担当の方も来てくださるので、そこでつながりはできるのかなと思います。結構、それもHIT-ALPsの強みではありますね。
Yさん こういうことは、普通に学生生活を送っているだけでは体験できないことだと思うんです。経験ってすごく武器になるから、それだけでもかなりメリットになるなんじゃないでしょうか。
――ちなみに、学習へのモチベーションに何らかの影響はあったと思いますか?
Yさん 誰かに教えるようなことをしたいなら、やる気があるないにしろ、必然的に知識を身につけざるを得ないですから。例えばSくんのチームではリニアモーターのことに取り組んでいますが、意欲が上がるかどうかは人それぞれだとしても、教えようとするなら、少しでも勉強しないといけないだろうから、知識は身につきますよね。
Sさん モチベーションといえるのかどうかわかりませんが、復習になっていますね。テストのための勉強だけだと、出題される範囲のことしかやらないんですけど、HIT-ALPsの活動があることによって、「ちゃんと説明できるくらい深く理解しておかないと」と思うようになりました。
――そういう意味では、最初に先生方が活動を構想した段階で「学生の自発性を高めるために、みんなを集めて勉強会をさせたい」というようなことをおっしゃっていたことが、直接的ではないにしろ実現できたということかもしれませんね。
Yさん そうであってほしいですね。
――Yさんから団長を引き継いだSさんにも、今の活動状況やこれからのことについてお尋ねしたいと思います。Sさんが団長になるきっかけは?
Sさん 「団長をやってみないか」と村上先生とYさんから打診されたので、やってみようかなと思って引き受けました。
――団長として活動に関わるようになっていかがですか?
Sさん なってみてわかったことも多いのですが、団長になった途端、メールがすごい量来るようになって・・・。Yさんはこれをさばいていたんだと思うと、本当にすごいことだと思っています。
――例えばどんなメールが来るんですか。
Sさん 企業さんが提案してくれた講座の開催時期を先生方と調整しないといけなかったり、活動が止まっているチームがあったらそこと会議もしなかったり。そういう小さなことがちょっとずつ重なっていって、結構メールがいっぱいになっていくんです。それに、3年生になると授業も専門的な分野に入るし、コマ数も多いから、学業的には前期がピークかなと思っていたんですが、どんどんピークが上がっている感じで。今はちょっと不安な気持ちでいっぱいになっています。いや、本当に大変です。
――授業も大変だし、プロジェクトも想像以上に大変で、不安も出てきているような状況にあるようですね。Sさんの働きぶりをご覧になって、本人の前では言いにくいかもしれませんが、前団長のYさんはどう感じておられますか?
Yさん 大変そうだなって見ています。いろんな学生がいて、いろんな相談があって、先生に方にもいろんな人がいて、いろんな意見があって、それらを全部、団長が意見をまとめていかないといけないからですね。計画の時期や時間を調節したり、そういうのが大変だと思うけど・・・頑張ってくれ!って感じですね。
――大変さはあるかと思いますが、やりがいもあればお聞かせいただきたいんですが。
Sさん やりがい…どうでしょうか。団長が僕に代わって、今はこれからの計画を立てている段階なので、それがうまくいけば、やりがいも感じられるんじゃないかと思います。計画があったほうがモチベーションになるし、何らかの活動がなければモチベーションも維持できませんから。前倒しできるように考えていきたいと思っています。、
――それはSさん自身の成長にもつながりそうな手応えを感じていますか?
Sさん それはありますね。僕はこれまで部長なども経験したことがありませんから。この立場になると責任もあるし、何事も僕が決定できる反面、一歩間違えると、まずいことになる可能性もあるわけです。そうならないように、先生方と話し合いながら、どうしていくのが正解なのかを考えながら、計画を立てているところです。
――Sさんと話していると、責任があるということについて、重たさは感じているけれど、しんどさを感じているわけではないように聞こえます。きちっと計画を立てて進めることに安心感をもって進んでいるようにみえますね。
Sさん 僕は割と楽観的なんです。HIT-ALPsとはちょっと別の話をすると、僕は個人的に、健康なもの食べたり筋トレしたりと、生活習慣整えるのが好きなんです。計画を立てて進めることで身体に変化が現れるのも楽しくて。そういうところから自信がついているのかもしれません。
――なるほど、今もしんどいけれど、計画を立てるプロセスをちょっと楽しんでいるみたいですもんね。今後のHIT-ALPsへの展望はありますか?
Sさん 活動が止まってるグループがあるので、今年度中に人を動かすなどして活動を一区切りさせて、来年度からは1年生も入ってくるので、新しい形に変えていきたいです。
――Yさんはまもなく卒業されますが、今後、HIT-ALPsが電気システム工学科にとってどういう存在になることを期待していますか?
Yさん 学生が主体的かつ意欲的に電気の知識を身につけられる場であってほしいし、それが小中高生やいろんな企業にも伝わって、電気業界がもっと盛り上がることに貢献できる活動になればいいなと思っています。
――最後に前団長のYさんから現団長のSさんへ、エールをお願いします。
Yさん 失敗は許されないなどと、あんまり気負わずにやってほしいですね。僕は人って失敗しても成長していくと思うんで、もし失敗する可能性があるようなことでも、自分がやってみたければやってみてもいいって思いますね。リスクがある道を選択するのもまた面白いと思います。
Sさん ありがたい言葉を、ありがとうございます!
Yさん 人をまとめる大変さだとか、人にものを伝える力っていうのは、社会に出ても必ず役立つと思うので頑張ってください。
※肩書・掲載内容は取材当時(2024年12月)のものです。
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YさんとSさんのお二人のお話を聞いてみると、やはり先生方との視点の違いを感じることが多くありました。先生方は、学生の自主性を育てたい=自主的に勉強するようになってほしい、と言うお気持ちでスタートしたHIT-ALPsでしたが、学生のお二人は、勉強会では自主性は育たないと考えられました。そもそも人も集まらないだろうと。特にYさんは大学祭の実行委員長と言う経験からの学びもあったのでしょうが、学園祭の時のように自分たちで何かを企画して実行計画を作り、実際に楽しみながら動かしていく方が自主性が育つだろう、と考えられたわけです。そこに先生方の想い、すなわち学生にはもっと自主的に勉強して欲しい、と言うお気持ちが合わさり、相乗効果を得られるようなアイデアが、先生方と学生さんの話し合いの中で生まれてきたという経緯がよく理解できたのではないでしょうか。この教員と学生さんが対等の立場で目的を共有しながら新しい企画を考える場があったことがHIT-ALPsが生まれた最大の要因だったのではないかと思われます。そしてそのような場が生まれるきっかけとなったのは、やはり同学科で2019年の新入生からチームビルディングプログラムを導入し、学生どうしが関わり合いながら学ぶ場づくりを進めてこられたことが影響したのではないか、と考えるのは少しひいき目すぎるでしょうか。ただ、1学年80名程度の学科にもかかわらず、HIT-ALPsの初年度から2年~4年生で40人近い在学生がプロジェクトに集まって来たということも、やはりこれまでの積み重ねの果実ではないかと思われてなりません。
組織や集団の風土や雰囲気づくりのためには、意図をもって何年も働きかけていく必要があるのでは、と思わされた事例でした。