連載3-3/人と社会と企業とがつながる学生組織、新リーダーのもとで描く今後の展望とは【広島工業大学】
- odlabo
- 6月10日
- 読了時間: 8分
更新日:8月4日
広島工業大学工学部電気システム工学科の「HIT-ALPs」は、学生たちが主体的に活動し、電気工学の魅力を社会に発信するプロジェクトです。前回までの記事では、具体的な活動状況に加えて、今どきの学生の気質や、チーム活動で主体性を発揮することにまつわる課題、それを見守る教員の葛藤にもふれてきました。「HIT-ALPs」は活動2年目に突入し、次なるステージを見据えて、どのような展望を描いているのでしょうか。運営を担当する松岡 雷士先生(工学部 電気システム工学科 教授)と、板井 志郎先生(工学部 電気システム工学科 准教授)に話を聞いてみました。

板井志郎先生(左)と松岡雷士先生(右)
――村上先生には、企業向けにこの活動の発表会を行い、評価も大変高かったと聞きました。お二人の実感はいかがですか?
松岡先生 企業さんからの評価は軒並み高かったというのは、その通りだと思います。少子化や電気系学科の不人気などを理由に、とにかく今は電気系人材が不足してるんですよ。本学科の就職先になる電工系の企業さんは特にそれを切実に捉えておられます。将来の電気系人材を増やすような活動をしていたり、それに向けてのコラボレーションをしたいという企業さんも非常に多くて、そういう点でも評価していただいています。
板井先生 人材不足の課題に加えて、企業さんも「自分で動ける人」をすごく求めているという話を聞きます。採用活動においては、指示待ちの学生や、お膳立てしてもらわないと動けない学生ではなくて、自分から相手との距離を詰めるとか、自分から働きかけることができるかということを非常に意識されているそうです。そういう面でも企業側のニーズと我々の活動とがうまくかみ合ったのではないかと思います。
――「HIT-ALPs」の次のステップについて、アイデアベースでも結構ですので、考えておられることがあればお聞かせいただけませんでしょうか。
松岡先生 今の活動は小中学生向けの工作教室がメインですが、私は将来的には高校と連携をとりたいと考えています。特に広島工大は系列の高校もあるので、世の中にちょっとインパクトを与えるような研究に近い高大連携ができたらいいんじゃないかなと思っています。
板井先生 この1年は教材づくりで精一杯だった面もありますが、蓄積ができたので、今後はもっと積極的に外部に行きたいですよね。「電気の魅力を伝える」というプロジェクトの本来の目的を達成させるために活動を軌道に乗せるのが2年目の課題だと思います。
――教材づくりや工作教室の指導役を経験することは、学生さんの学習へのモチベーションになっているのでしょうか?
松岡先生 まさしくあるんですよ。それは非常に良いことなんですけど、難しいのは、そういう学びを深めてくれるのが4年生や大学院生といった上級生なんですよ。今はどちらかというと「なんで俺はちゃんと勉強してこなかったんだろう」っていう後悔になっています。だから、もちろん、そこから勉強もやるんですけどね。私の考える理想は、1年生がその姿を見て気づいて、「後悔しないように勉強しよう」となることなんですが、どうやらそういう気持ちを1年生に伝えるのが難しいらしいです。板井先生が先ほどおっしゃった、「リーダーが1人で抱え込んでやってしまう」という課題に通じることなんですよね。押し付けがましかったり説教がましかったりするとよくないのですが、上級生の感じた後悔が1年生に伝わり、学習への動機づけになるような仕組みがあればいいんですけどね。
板井先生 まさにそこなんですよね。3年生以上では学業意欲に結びついてる様子は感じますし、大学院生が頑張ってる姿を見て、自分もそうなりたいと思う学生も増えてくるんじゃないかと期待はしています。一方で、1・2年生がプロジェクトに主体的に関わっていく体制が全体としてはまだまだ整っていないので、その仕組づくりは考えないといけないでしょうね。
松岡先生 先輩から後輩へ経験をつなぐために、新入生への対応も工夫するつもりです。6月ぐらいまでに必ず1回は外部での教室を体験するというラインをつくれば、1年生も参加しやすいんではないかと考えています。
――そのアイデアは先生たちから出てきたものですか?
松岡先生 この件に関しては我々の意見が大きいと思います。というのも、外部で活動できるグループがまだ半分ぐらいなんですよ。残りの半分ぐらいは、言い方は悪いですが、つくったり悩んだりしながらまだ足踏みしてる状況です。外部を経験した人たちは楽しさを感じてくれているので、「新入生にはなるべく早く経験させたい」と考えているんです。
――次のステップに向けてリーダーも代替わりしているんですよね?前リーダーは学園祭実行委員長だったそうですが。
松岡先生 はい。彼しかいないと思って私から推薦しました。彼はとにかく人の感情を重視する人間で、みんなが気持ちよく働けるようにバランスを取ることを大切にしていました。広島工大の学園祭はものすごく規模が大きくて、彼が直接何かをするというより、各部署のリーダーに対して指示する役割を担っていたので、かなり気遣いながらやっていたんだろうと思います。でも一方で、みんなの気持ちを考えすぎる面もあったのかもしれません。その点では、まだ始まったばかりですが、2代目のリーダーは初代とは少し違う色に変わりそうな気がしています。
――新リーダーを選んだ理由は?
板井先生 3年生の人数が少なかったこともあり、我々のほうからやってほしいとお願いしたのですが、本人もやりたいと引き受けてくれました。
松岡先生 いい意味で、新リーダーは勝手にどんどん行動してくれています。前リーダーはかなり小さなことでも、「こうしたいんですけど」と相談してくれていたので、多分我々にも気を使っていたんだと思います。それが、今はいい意味で薄れています。初代を見て育ったから、「ここまではやっていいんだ」という加減がちゃんとわかってるんです。次回行う公民館での科学イベントも、ほぼ勝手に決めてくれました。
板井先生 ええ、びっくりしましたけど、本当によかったです。
――どういうところに違いを感じますか?
松岡先生 今までは、公民館にアポイントを取るにしても教員が間に入ることが多かったんです。ですが、今回は自分でアポイントをとって、会場となる公民館を見つけてきてくれて、イベントに参加するグループも決めてくれました。結果としてリーダーシップはかなり高いですね。ただ、もちろん、初代リーダーの時とは環境が違うし、メンバー全員の自律力も強くなっていますから。やっていいこととダメなことをみんなわかってるんで、結果としてそうなったんだと思うんですけど。
――1年の経験を経て集団にも自律心が培われてきたということですね。
松岡先生 まさしくそうです。そこは非常に喜ばしいですね。
――村上先生には、学内で「HIT-ALPs」への認識が広まっていると聞きましたが、実感はありますか?
松岡先生 村上先生がいろんなところで活動を話してくれているおかげで、いろいろと質問を受けるということは増えた気がします。
――学科から発信して徐々に認知が広まり、他の学科や組織へも波及効果がありそうです。広島工大さんのさまざまな取り組み、大変興味深かったです。ありがとうございました。
※肩書・掲載内容は取材当時(2024年12月)のものです。
【広島工業大学編】他の連載ページへ

前回までの川原先生や村上先生のお話はHIT-ALPsが生まれるまでの様々な取組みのお話でした。今回は生まれたその集団をいかにして育てておられるかのお話だったと思います。その育ての親ともいえる松岡先生と板井先生のお話には、何度も「学生が主体的に」と言う言葉が出てきました。そこに苦労されていらっしゃるようでした。
HIT-ALPsは2024年の初めに参加希望者を集めて40名近い学生でスタートしました。彼ら彼女らは自分で希望して参加するくらいですから、そこそこ主体性の高い集団だったと考えられます。その集団から10個くらいのプロジェクトが生まれました。しかし4月に1年生が加わると、プロジェクトによっては途中から1年生が来なくなるという「いわゆる出席マネジメントの問題」が発生したとおっしゃっておられました。「マネジメント」と言う言葉からは、上に立つものが下のものを管理するというニュアンスが感じられますが、もし4月に1年生が加わった段階で、プロジェクトグループごとのチームビルディングを実施していたらどうだっただろうと思いました。
北森先生は、その著書「組織が活きるチームビルディング(東洋経済新報社)」の中で、チームビルディングについて以下のように書かれています。
『自然発生的にできていくチームワークを待つのではなく,コミュニケーションやリーダーシップなどについて学びながら,自分をより深く理解し,チームメンバーとも相互理解を深め,目標を統合し,目標達成のために力を合わせていく―そのようなことを促進するための教育・訓練のプログラム』
北森先生のこの考え方や方法論が、学生集団の主体性を促したり活性化を実現したりする、一つのヒントになるのではないでしょうか。