連載2-2/「楽しい」の先に「学び」がある。試行錯誤でたどり着いた組織づくりの本質とは【常磐大学】
常磐大学では、学生の主体性を涵養するため、2014年、学生と教職員が協働して「TSS(Tokiwa Student Staff)」を立ち上げ、課外活動に取り組んでおられます。2023年に、より学生主体の自治活動へとシフトするため「コミュニティサービス連合」へと進化を遂げています。
今回は、前回に引き続き、「コミュニティサービス連合」に所属するボランティア団体「TRICOLOR(トリコロール)」で、リーダーを務めたUさんにインタビュー。今回は、組織運営の壁にぶつかる中でたどり着いた「『楽しい』の先に『学び』がある」というUさんの考え方は、目標達成と人間関係維持の両立を説く「PM理論」を体現しているかのようです。実践をとおして学生が自ら考え、組織を強くしていくプロセスを紐解いてみたいと思います。
(全2回の後半)

――先ほど、リーダーをしていた時に「人間関係や雰囲気づくりに気を配っていた」とおっしゃいましたが、そうしようと思ったのはなぜですか。
Uさん 僕は、「楽しい」の先に「学び」があってほしいと思っているからです。
―― その考え方は最初からUさんの中にあったものなのか?それとも、何かをきっかけにそう思うようになったのですか?
Uさん たぶん「TRICOLOR(トリコロール)」(以下、トリコロール)に入って1年目と2年目に感じたことに大きな違いがあったからです。1年目はメンバーの一員としてたくさんのプロジェクトに参加していました。当時の4年生は雰囲気づくりが上手な方が多くて、ずっと楽しくて、1年間があっという間に過ぎていきました。しかも、楽しい中でも、いつの間にか自分なりの学びが感じられるようになっていたんです。
ところが、2年目からトリコロールのリーダーをすることになり、団体全体を見る役割になると感じ方が変わってしまって。そもそも僕の興味があったのは企画を考えることだったのに、個別の企画を考えることに参加できないし、リーダーとしてつまずきを感じることが多くて、「楽しい」っていう感情が若干薄れてしまったんです。苦しくても、さすがに僕はいろいろな責任があるので降りることは考えませんでしたが、メンバーなら苦しい感情がでてくると1年間が長く感じたり、印象に残らなかったりするだろうし、そうすると辞めてしまう人出てくるだろうなと思って…。
―― リーダーとしてなかなか苦しい体験もしたんですね。
Uさん リーダーを経験できたこと自体は段違いに学びが大きかったのですが、難しいことも多かったです。それでも、「どうせ忙しいなら楽しい方がいいよね」って思うようになり、3年目は同級生にも協力してもらって、雰囲気づくりに力を入れることにしました。結果的にそれがある程度うまくいった一方で、自分が1年目に楽しかった時期には及ばないような気もしています。今年はリーダー職を離れ、活動最後の年なので、雰囲気づくりに専念して、自分の目標とするレベルにまで近づけて後輩に託せるようにしたいです。
―― ちなみに「楽しい雰囲気づくり」って、どんなことをしたんですか?手応えがあった取り組みを具体的に教えてもらえますか?
Uさん 活動中は週1回はミーティングで顔を合わせるんですけど、それ以外でのサークルメンバーとの関わりが増えたと思います。完全に活動と切り離したLINEグループを作って連休中にバーベキューをしようよとか、水族館に行こうみたいなことを喋れるようにしました。そこで、活動の絡みがない友達としての関わりがすごく増えて、学科とか学年の垣根を超えて個人としての関係性の幅が広がったなと思います。
―― それは面白いですね。Uさんは「PM理論」って聞いたことある?
Uさん 聞いたことないですね。
――今のUさんの話を聞いて参考になるかな、と思ったんだけど、リーダーシップを研究していた三隅 二不二(みすみ じゅうじ)という社会心理学者が、約20年に渡って企業組織を中心に15万人以上の社員・職員を対象に研究して提唱した理論なんです。その理論によるとリーダーシップには2つの軸があって、「P」の機能と「M」の機能があると考えられると。Pは「パフォーマンス」で、目的達成や目標達成に向かう機能。Mは「メンテナンス」で、人間関係を作るとか、まとまりがあるとか組織を維持する機能を指しています。
その研究によると、生産性が高いチームと低いチーム、そして事故やミスが多いチームと少ないチームのデータを調査したところ、一番事故やミスが少なくて生産性が高かったのは、リーダーのPとM、両方の機能が強いチーム。つまり、「目標達成もしようぜ、でも人間関係も作ろうぜ」というチームが一番優秀だったそうです。逆に一番ダメなチーム、生産性も高くないし事故やミスが多いチームっていうのは、PもMも弱いリーダーのチームだったそうなんです。
じゃあ、その中間。Pの機能は強いけどMが弱いチーム(Pm型)と、Mの機能は強いけどPの機能が弱いチーム(pM型)。この2つだと、どっちのほうが良かったと思いますか?
Uさん 印象としてはPの機能が強いほうが効率的というか、良さそうなイメージがありますね。
――そう、短期的な作業量だけで見れば、目標達成を推し進める「P」が強いチームのほうが結果は出るんです。でも、事故防止やチームの意欲維持においては、目標達成ばかりを急かすよりも、人間関係を重視するチームの方が優れていたそうです。つまり、「長期的な生産性」や「事故の少なさ」の観点で見ると、時間が経つにつれて「M」の機能が強いチームの成績が上回っていったそうです。それくらい、Uさんが言ってくれたような「人間関係」とか、目的以外のところで関係を作って「安心の場」を持つことが組織にとって大事なんですよね。Uさんの話を聞いていて、その理論のことを連想しました。
Uさん 実は僕が3年目から関係づくりに力を入れるようになったのは、ラーニングバリューさん主催の「オンライン学びあいキャンパス」に参加した時に、他大学の方にアドバイスを受けたからなんです。
―― どんなアドバイスだったのですか?
Uさん 学生同士の交流の時間にお互いの悩みを話したのですが、雰囲気づくりで悩んでいる団体が結構多かったんです。そこで他の団体と情報交換して、ある団体から「メインの活動とは別の部分で、楽しい雰囲気を作っている」っていうアドバイスをいただいて。それを持ち帰って、同じ同学年の子と話し合って、メインプロジェクトのLINEとは別に雑談用LINEを作ったんです。
――なるほど。いろんなことに気づいて、学んで、知らず知らずのうちにPM理論を実践していたということですね。すごいなぁ。
【「オンライン学びあいキャンパス」とは】
ラーニングバリューでは2016年からField of invaluable learning(略称:Fil)と称し、学生団体に所属している学生・教職員が大学や団体の垣根を越えて活動の悩みや課題を共有し、オープンに語り合い、学びあうイベントを開催しています。コロナ禍を境にオンライン化し、「オンライン学びあいキャンパス」として開催。常磐大学さんには旧TSSの頃から参加していただいており、2026年は話題提供校としてコミュニティサービス連合の「トリコロール」に発表していただきました。
――話は少し変わりますが、コミュニティサービス連合では、毎年春にリーダー養成研修でチームビルディングプログラムを体験していますよね。Uさんはそれについてどんな印象をお持ちですか?
Uさん 1年目はまだサークルの雰囲気が掴めてなかったので、先輩との関わりをつくるためのものというイメージをもっていました。2年目はリーダーになったので、リーダーとしての考え方やチームビルディングの経験や知識を、とにかく全部吸収して、持ち帰って実践しようと考えていました。3年目になると、リーダーとしてある程度できる部分とできていない部分が明確になってきたので、そこを重点的に意識して、目的を持って受けられたと思います。
―― 3年目にはどんな目的を持って研修に臨んだのですか?
Uさん 2年目は、企画の案出しなどのミーティングの時にも、できる人だけでバーっと決めちゃうことがあったんです。でも、内気で自分からうまく発言できない人もいるんですよね。だから、チームビルディングのグループワークで「あなたはどう思いますか」「こういう意見もいいよね」など、引き出したり促したりした経験を企画のミーティングで発揮できれば、うまく場を回せるようになるんじゃないかと思ったんです。
―― なるほど、そういう話し合いの回し方やいろんなタイプの人の巻き込み方みたいなことも、研修をとおして試してみて、サークルの運営に活かしていたんですね。今年も5月に研修が行われますが、4回目となる今回はどんなテーマで臨むつもりですか?
Uさん 僕は4年目で、今回は支える側の立場なので、基本的には後輩に進行を任せて、不足している部分については、自分が実際にやって見せる形で手伝えたらいいかなと思っています。
――今後、トリコロールが発展していくためにはどんなことが必要だと思いますか?
Uさん 僕はやっぱり雰囲気作りが重要だなと思っています。今の2・3年生は意欲も能力も高い子ばかりで、リーダー個人の能力自体は全然心配していません。みんなの力をうまく合体して、総合力をどうやったら高められるかな、というところが大事になると思います。
昨年は完全に活動以外のところでうまくコミュニケーションを図っていったんですけど、それだけではやはりつながりが薄すぎるかなと感じています。なので、できれば活動の延長線上で同じような雰囲気が作れたらなって思うんです。例えば、ミーティングが終わった後に一緒にご飯に行くとか、企画を考えたら昼休みを使って試してみようとか。そういう機会を増やすことができたら、「楽しい、しかも、活動だ」になっていくんじゃないかな。そこを重点的に取り組むのが、活動最終年を迎えた僕の目標です。
―― 今の話って、まさにこの取材のテーマそのもので、チームや組織が強くなったり成長したり、個々のモチベーションを高めたりするプロセスを表しているなぁと感じました。
最後に、今回こうして対話してみてのUさんの感想を聞かせていただいてもいいですか。
Uさん 自分の中で感覚的にやっていたことに理論や理屈があることを知りました。それを理解したうえで、組織の仕組みに取り入れると、もっと役に立つだろうなと感じました。ちょうど僕が今ゼミで学んでいるのがチームビルディングに関することなので、そういうことももっと調べて自分の糧にしたいです。
―― 何でも理論通りにいくわけではないですが、理論に基づいて考えることで、実現できる確率も上がるかもしれないよね。自分の感覚も大事にしてほしいですが、理論と合わせて考えることできっと気づきも学びも増えると思います。
※肩書・掲載内容は取材当時(2026年4月)のものです。

チームビルディング研修の実施をご提案したときに、必ずと言っていいほど「どんな内容か」が話題になります。いわゆる研修の「コンテンツ」の話題ですね。ラーニングバリューのチームビルディングプログラム「自己の探求」にも、当たり前ですがコンテンツがあります。そしてコンテンツが話題になったときは、必ずと言っていいほど、「これは体験したことがある」とか「似たようなものを知っている」と言った反応が返ってきます。そうすると、「ではこんな内容にしましょう」とか、「これは知っているので別のものはないですか」といった具合に、コンテンツを何にするか、に焦点が当たっていきます。
ところが今回のインタビューでも明らかになったように、Uさんは毎年同じプログラムを受けながら、学年や自分の置かれた立場によって違う学びを深めていっています。すなわち、コンテンツを習得する学習ではない学び、を深めていっているようです。
我々は日ごろ、コンテンツを学ぶ、すなわち知識をつけることに無意識に焦点を当て過ぎているのかもしれません。もちろんそのような学びはとても大切なのですが、個人の成長を考えたときに、常磐大学さんで実施しているような学び方、すなわち毎年メンバーが少しずつ入れ替わりながら、それぞれの立場でそれぞれが体験を深めていくような学びの機会も、とても意義のあるもののように感じます。とすると重要なのは、コンテンツ以上に、いつ、どこで、どんなメンバーで、どのような関わり方を通じて学びを深めることを目指すのか、すなわち研修のプロセス設計ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。



