連載1-2/学生広報スタッフとしての組織活動の経験が理系学生のキャリアを拓く【日本工業大学】
- 2 日前
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日本工業大学では2023年のオープンキャンパスから、学生主体のオープンキャンパスの実施に向けて「学生広報スタッフ」による組織的な運営をスタートしておられます。1年目はリーダー役の学生に裁量や負担が集中していた体制を、2年目以降はより組織的かつ持続可能な体制へとシフトするためメンバー全員に役割を分担。さらに、学生たちのモチベーションを維持しつつ、活動を通じて確かな成長を実感できる仕組みづくりにも取り組んでおられます。前回に引き続き、この活動のサポート役でもある入試部入試課の課長補佐 小泉拓也さんにインタビュー。企業研修さながらの緻密な人材育成システムや、学生たち自身が定めた理念、そして「オープンキャンパススタッフ」から「学生広報スタッフ」へと名称を変更した意図など、組織をさらに進化させるための取り組みと、その先に見据える展望について、話を伺いました。

――前回のインタビューで、学生広報スタッフの活動と、それに必要なスキルを習得するための研修を体系化したことや、上級生・下級生では異なる達成目標を設定していることなどお伺いしました。「学生候補スタッフ研修体系」を拝見したところ、経験年数によって身につけるスキルが増えていく過程は、まるで企業のキャリアパス制度のようです。こういうものを設定したのは、小泉さんの前職での経験が影響しているのでしょうか?
小泉さん そうかもしれません。私はメーカー時代、法人営業や採用リクルーターを経験し、前職の大学では就職・キャリア支援、地域連携、入試広報で管理職を経験しました。人事や教育の専門家ではありませんが、社会人大学院でキャリアデザイン学を修了し、「人材育成」や「仕組みを見える化」することの重要性は強く感じていました。

――縦軸を見ると、「スタッフ」から始まり、「ファシリテーター」「リーダー」へと役割が高度化していく様子がわかります。モチベーションを高めるための成長目標を明示しているんですね。
小泉さん 研修は学生たちに自発的に参加してもらわないと意味がないと思っています。活動を強制してもしょうがないし、やっぱり学生に自走してもらいたいですから。我々がある程度キャリアパスを示してあげて、大学の学部・学科で身につく専門性に加えて、社会人基礎力が身につくということを伝え、それに共感してくれる学生たちに参加して欲しいと思って作ったんです。
―― 研修体系の整備と並行して、「組織図」もつくっておられますが、それが必要だと思ったのはなぜですか?
小泉さん オープンキャンパスというのは、どうしても活動が夏(6月〜8月)に集中する、プロジェクト型のイベントなんですね。本番が5回ほど続いて、夏が終わると活動が止まってしまう。私が危惧していたのは、9月以降の秋学期に組織としての活動がないと、学生のモチベーションが下がって離脱してしまうことでした。そうなると、翌年の春にまたゼロからメンバー集めをしなければなりませんから。
―― 活動を持続可能な「年間を通じた組織」にする必要があったわけですね。
小泉さん そこで、オープンキャンパスの時期だけでなく、年間を通じて役割を持てるような組織図をラーニングバリューさんや佐藤と相談して考案し、10月に学生たちと事前打合せの上、提示しました。全メンバー約70名を、「運営部会」と「広報部会」の大きく2つに分け、4つの係を作りました。運営部会には企画係・総務係を、広報部会にはSNS係・制作係を配置し、全員が必ずどこかの係に所属するようにしました。

―― なるほど。これならオープンキャンパスがない時期でも、SNSで発信したり、次の企画を練ったりと、それぞれの役割で活動を継続できますね。ですが70名もの組織になると、温度差や意見の食い違いも出てきませんか?
小泉さん それはもう、日常茶飯事です。代表と副代表の間で熱量が違ったり、係の中で意見が対立したり。現場の最前線にいる佐藤は、日々その調整にあたっています。そこで、判断の拠り所となるものをつくるために、ラーニングバリューさんのファシリテーションのもと、学生たち自身の手で「理念」を策定してもらいました。彼らが決めた理念は「また来たくなる、決めたくなる充実したオープンキャンパス」です。
―― 自分たちで決めた言葉だからこそ、重みがありますね。
小泉さん チームの方向性がズレそうになった時、私たち職員が介入するのではなく、学生代表からこの言葉を投げかけてもらうことで、原点に立ち戻れる。拠り所ができていたのは組織運営において非常に大きかったですね。
―― 学生広報スタッフの今後について、小泉さんはどのようなことを考えておられますか?
小泉さん 学生広報スタッフは、元々オープンキャンパススタッフという名前でスタートしたのですが、年間通じての活動になったことで現在の名称になりました。ですが、これを単なるイベント運営の活動にしておくのはすごくもったいないなと思っています。彼らがこの4年間でどのように成長し、どのような力が身についたのか。それを可視化し、教育的意義のある活動として発展できたほうがいいのではないか。それができたら大学としての特徴にもなるのではないかと思っています。
また、これだけ充実した研修を行い、組織運営の経験を積んでいる彼らは、すでに高いスキルを持っています。私個人としては、広報活動だけでなく、ピアサポートやTA(ティーチング・アシスタント)、SA(スチューデント・アシスタント)のような、教育的支援を行う組織へと発展できたらいいのではないかと思っていますが、現状の枠組みから飛躍するのはなかなか難しそうです。
――私が関わっている関西のある文系大学ですが、プロジェクト演習のような科目で、新入生のチームビルディングを先輩学生が担当しているケースがあります(大手前大学編参照)。1クラス大体25人ぐらいで、先輩学生がファシリテーションして、丸1日かけてチームビルディングして先生にバトンタッチする。そうすることで大学適応を図るということをやっておられる大学はありますね。先輩学生のファシリテーション研修はラーニングバリューが行っていますが、それは授業として扱われているので単位も取得できて、毎年80人ぐらいの学生が受けています。ファシリテーションを学べて、実際に生かす場ももうけて、その一連の取り組みを授業化しているケースは珍しいと思います。
小泉さん ボランティアベースではなくて、しっかりスキルを身につけさせて、それを学内のリソースに生かすという流れはいいですよね。
―― 学生広報スタッフの活動を、一つの活動としてではなく、一貫した教育視点のある取り組みにしたいという発想は、「入口」と「出口」を知る小泉さんだからこそだと感じます。
小泉さん やっぱりハードとソフト、両方のスキルがあった方がいいと思うんです。本学の学生は、専門分野の技術や知識に関しては非常に優秀ですが、コミュニケーションやリーダーシップといったソフト面には、苦手意識を持つ学生も少なくありません。ですが、技術者として社会に出れば、プロジェクトマネジメントやチームを率いる力が必ず求められます。将来、管理職を目指す上でも、学生時代に組織運営や後輩指導を経験したことは、大きな強みになると信じています。
―― 学生広報スタッフが今後さらに組織として成長していくうえでの課題は何だと思われますか?
小泉さん 一番の課題は、学生への負荷と、私たち職員のリソース不足です。学生の自主性を尊重するあまり、彼らに過度な負担をかけていないか、学業との両立はできているか、常に気にかけています。オープンキャンパスや広報活動に加えて、入学前準備学修においても、先輩学生として入学予定者に対してファシリテーションを担っています。これら一連の活動を通して、学生たちは手応えを感じているようです。一方で、この活動が、学生たちの居場所にもなっている面もあり、そういう意味ではセーフティネットとして機能している部分もあるかなとも思ったりもしています。また、いくらラーニングバリューさんに手伝っていただいているとはいえ、入試部のリソースだけで、これだけの活動を支えるのも限界も近づいています。
―― 大学全体での協力体制が必要になってきますね。
小泉さん その通りです。せっかくできた強みを生かすためにも、全学展開でうまく機能分化できたらと思うことはあります。
――学生広報スタッフを組織してオープンキャンパスをすることで、実際に数字面での効果にも現れていますが、そのことは学内で認識されているのでしょうか?
小泉さん 教員を含めた委員会がある時に成果報告をすることはあります。学生主体のオープンキャンパスになってから実際出願率も5ポイントぐらい上がり、3年間維持しているんですよ。2025年度は参加者の実数はあまり増やせなかったもののリピーターが増えたので、ミスマッチを防げる可能性も上がったのではないかと思っています。課題はあるものの実情は伝えているつもりですが、まだまだ伝えきれてない面もあるかもしれません。
――この取り組みが、貴学の「学生が成長する大学」という文脈の中でもっと伝わっていくといいなと思いました。学生の成長を担うのは教員だけの仕事ではなく、職員でも貢献できることが伝わっていくと刺激になるのではないでしょうか。
小泉さん 1つの課レベルでの行動ではなくて、全学的にこうした取り組みに職員が携わる文化があればいいのかもしれませんね。
―― 確かにそうですね。私も何度か仕事で貴学と接点を持たせていただいたことがあるのですが、昔から先生方は一生懸命いろんなことを考えて、いわゆる手弁当で取り組んでおられる風土だと感じています。先生主導は決して悪くはないのですが、職員の方ももっと前に出ていって、先生と職員が両方から支えて、その真ん中に学生がいる、そして彼らがもっとも成長する形をつくっていけたらいいですよね。
※肩書・掲載内容は取材当時(2026年2月)のものです。

オープンキャンパススタッフを学生にやってもらっている大学はとても多いと思いますが、今回ご紹介した日本工業大学さんのように、それを組織化し、また一つの教育プログラム的に発展させている大学はそう多くないのではないでしょうか。
今回お話を伺って、その立ち上げ時には、一人の職員さんと一人の学生のリーダーシップにおんぶに抱っこで立ち上がったものが、どのように組織化されていったのかがよくわかりました。恐らくそのキーポイントとなったのが、活動の理念を、チームビルディングの力学も活用しながら学生たちが自分たちで作ったことと、活動を継続させていくことが自分たちのキャリアの成長にどう結びついていくかのチャートに落とされたことだと思いました。
自走していく学生組織を立ち上げ育てようとする際に、とても参考になるのではないでしょうか。



