連載1-2/ 課外活動のPDCAで「社会人3年目レベル」を目指す学生育成【常磐大学】
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常磐大学では2014年に、学生と教職員が協働して「TSS(Tokiwa Student Staff/現:コミュニティサービス連合」を立ち上げ、学生の主体性を育む活動に取り組んでおられます。立ち上げから10年を経て、より学生主体の活動にシフトするため、TSSは「コミュニティサービス連合」へと進化しています。多くの大学が悩む「学生組織の形骸化や縮小」を防ぎ、10年以上にわたり活動を継続できている背景にあるのは、「社会人基礎力のパッケージ化」ともいえる、活動をとおして確立されたPDCAサイクルにあるようです。「裏コンセプトは、社会人3年目で通用する力をつける」と明かすのは、組織立ち上げから一貫して活動に伴走している職員、関 敦央さん(心理臨床センター統括)。全員がリーダーを経験するルールや、活動のマニュアル化を避け思考させる働きかけなど、学生の主体性と社会人基礎力を同時に引き出すサポートについて話を聞いてみました。
(全3回の第2回)

――現在はどのような運営体制になっているのでしょうか。
関さん TSSは、立ち上げから10年ほどは学生と教職員が協働で活動を行う体制が続いていましたが、コロナ禍を経て学生の自治活動へとシフトすることになり、2023年からは「コミュニティサービス連合」という組織に引き継がれました。自治活動のサークルは顧問を教員が務めるというルールがあるため、私は現在、副顧問という形で関わっています。
――活動内容や団体に変化はありますか?
関さん TSS支援チームは活動内容こそ変わりませんが、団体名を 「ENISHI -縁-(えにし)」 に変更しました。また、国際センターサポーターはコミュニティサービス連合から脱退したため、現在は「コミュニティサービス連合」という枠組みの中に、「ENISHI」、「図書館サポーター」、「トリコロール」、「くるり編集部」の4団体が存在している状態です。
現在の活動メンバーは4団体合わせて100名程度で、複数の団体に所属している学生もいます。内訳としては、トリコロールが50~60名、その他の3団体は10数名程度です。
――他大学でもこうした学生組織の活動事例を聞くことがありますが、立ち上げから1~2年はガッと人が集まって活性化するものの、次第に規模が縮小していくケースも多いと聞きます。そういう意味では貴学では形を変えつつも、2014年から10年以上にわたって活動されていることだけでもすごいことだと思います。組織の維持・継続に欠かせない要素の一つが、新メンバーのリクルーティングではないでしょうか。その辺については何か工夫されているのでしょうか?
関さん 新入生の獲得も活動としてパッケージ化しているのです。SNSによる広報は入学前から始まっていて、中でもENISHIが企画・運営している新入生向けサークル紹介イベント 「フレッシュフェス」 は3日間にわたって開催され、多くのサークルも巻き込んで実施しています。いわゆる就活の相談会のように、20数団体がイベント会場に一堂に会し、各サークルのブースに新入生を呼び込んで説明を行う形式です。
一連の活動を「パッケージ化」と表現しましたが、時代に応じて常に改善を重ねながら、先輩から次の代へとつないでいくことを大切にしています。
――メンバー募集以外の、具体的な活動についてはいかがですか?どのようなことがパッケージ化されていて、先輩から後輩に受け継がれているのでしょうか。
関さん 私が副顧問を務めているENISHI、トリコロール、くるり編集部についていえば、何かの企画やイベントを実行する際には、まず企画段階として、「企画書」、「作業工程表」、「予算書」の3点です。
その次の段階が「広報」。イベントを企画することが多いため、外部への協力依頼も含めた広報は非常に重要です。
そして、準備段階としては、「実施要領」、「準備チェックリスト(準備物一覧)」、「会場図面」、「タイムテーブル」等の作成や物品の準備を行い、本番を迎えます。イベント終了後の報告段階では「報告書」、「決算書」、「振り返りまとめ」等を作成し、メンバー全員で振り返りを行うことで、一つの企画が完結します。
翌年に同じイベントを実施する場合は、必ず前年度の報告書や振り返りまとめから始めます。過去の実施方法はすべて資料としてまとめ、共有フォルダに保存しているため、それを見れば全体像が把握できます。先輩たちの経験をベースにしながら、自分たちの色にアレンジしていくケースが多いですね。
――いわゆる、PDCAをきちんと回している、ということですね。
関さん 私が考える裏コンセプトは「社会人3年目くらいで通用する力をつけること」です。社会で即戦力となれる力を学生のうちに身につけてほしい、という思いがあります。通常のサークルでは資料作成など、ここまで踏み込んだ活動をすることはあまりないと思います。社会に出て新入社員としてスタートしたとき、例えば「企画書って何?どう作るの?」という状態の人も多くいると思います。一方で、この活動を経験した学生は、「企画書にはこういう内容が必要だ」という知識や感覚をすでに持っています。もちろん、学生のうちに経験していなくても、学ぶ人はどんな環境でも伸びていくのでしょうが、この活動を通して、スタートラインに立ったときに精神的にも知識的にも余裕を持てるようにしてあげたい――その思いはずっと変わりません。
おかげさまで、卒業生からは就職する分野に関わらず「活動をやっていてよかった」という声を多くもらっています。
――人やお金を動かす経験を通して、社会人基礎力から組織を動かすリーダーシップまで、幅広いスキルが身につきますね。
関さん トリコロールでいえば、所属メンバーが多く、企画が同時並行で進むため、活動全体のマネジメントや企画をサポートするリーダーとサブリーダーに加えて、各企画にもマネジメントを担うリーダーとサブリーダーを置くようにしています。所属メンバーは、基本的に必ず一度は何かの企画でリーダーまたはサブリーダーを務めることをルールとしています。得手不得手に関わらず、リーダーとしてマネジメントを行う大変さを理解してほしいからです。
メンバーに何かを依頼しても、全員が期限内に対応してくれるとは限りません。本来、全員が期限を守ってくれれば、リーダーが催促のメールを作成して送る手間は不要になります。私はよく「自分の時間を自分のために使うのは構わないけれど、人の時間を奪うことはいかがなものか」と伝えていますが、リーダーなどの役割を経験することで、相手の立場を理解し、積極的に協力しようとする感覚を持つ学生が一人でも多く増えてほしいと思っています。
――「ワクワクする学生生活をつくる」というテーマで組織を運営するけれど、裏側ではずっと、学生の教育や育成といった意図を持って関わっておられるのがわかります。
関さん 例えば、ボランティア団体のトリコロールについていえば、私はボランティアの専門家でもありませんし、学生時代にボランティア経験があったわけでもありません。言い方はよくないかもしれませんが、正直にいえばテーマは何でもよく、活動そのものが「学生が学ぶためのツール」だと考えています。学生たちが興味をもって取り組めるテーマを軸に活動を行い、その過程で即戦力となれるようなスキルを鍛えていく――そんなイメージです。
――関さんはそれらをまとめて「パッケージ」とおっしゃいますが、組織や集団を動かすために企画だの工程表だの役割分担だのが必要だということを、どこで身につけたのですか?
関さん 例えば、工程表は「作業チェックリスト」と呼んでいますが、作業漏れが起きないよう、細分化した作業項目に加えて、期限や担当者も明記しています。これは、私がアドミッションセンターで管理職をしていた時の経験が反映されています。高校生の人生を左右するような入試でミスを絶対に起こさないよう、すべての作業項目を細かく確認できる仕組みをつくり、やるべきことを明確にしてスタッフ全員で共有していました。
また、不測の事態に備えて、情報を一人だけが抱え込まないよう、資料などは共有フォルダに保存し、作業チェックリストと連動させて資料番号を振るようにしていました。そうすることで、担当者が急に対応できなくなっても、他のスタッフがどの工程で何をやらなければならないのかを一目で把握できます。学生たちにも同じ方法を実践してもらっています。
「何を・いつまでに・誰がやるのかを明確にしておけば、誰でも対応できる」という自分の社会人経験を、そのままTSSに移植しているような感覚ですね。
――なるほど。私はその辺のことがすごく苦手なので、関さんに教えを請えたらよかったです(笑)
関さん 自分に何かあった場合のことも想定していますが、人事異動の際に、そのためだけのマニュアルを書くようなことはしたくないんです。基本的には「これとこれを見て、わからないことがあれば聞いて」というスタイルにしています。
――マニュアルには良さもありますが、何も考えなくなったりしますからね…
関さん そうなんですよ。先輩がつくったものをそのままコピペして提出してくることがあるので、「これはどういう意図で書いたの?」と必ず質問するようにしています。「わからないです」と答えれば、「自分でつくったのに、なぜ説明できないの?」と問い返す。その繰り返しです。
過去の資料は大いに活用すべきですが、少なくとも自分の中で理解し、自分の言葉にしてから発信しなさい、という指導は徹底しています。これは学生に限らず社会人も同じで、質問をしたときに「前はこうやっていたから」という回答が一番よくないと思っています。
――一つひとつの工程の意味をちゃんと考えてほしい、ということですよね。よくわかります。
※肩書・掲載内容は取材当時(2026年4月)のものです。



