連載1-1/主体性低下への危機感から誕生した、学生と教職員が協働する組織【常磐大学】
- 6月25日
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学生の主体性の低下や、帰属意識の薄れは、今や多くの大学が直面している共通の課題です。こうした課題に対し、学生と教職員が手を取り合い、ゼロから新たな組織を立ち上げることで学内の活性化につなげようとしているケースがあります。それが、茨城県にある常磐大学の「TSS(Tokiwa Student Staff/現:コミュニティサービス連合」です。最初にお話を伺ったのは、組織の立ち上げから現在に至るまで学生の活動に伴走している職員、関 敦央さん(心理臨床センター統括)。第1回目は、TSS誕生の背景にある危機感、教職員と学生が目指した「協働」の理想像、そして組織がもたらした職員側の変化について詳しくお話を伺いました。
(全3回の第1回)

――最初に関さんのプロフィールについてお聞かせください。社会人キャリアの出発点が常磐大学ですか?
関さん そうです。最初の配属は当時の名称でいえば入試課です。その後、管理職に昇進した時の理事長が文科省文部事務次官(現文部科学事務次官)経験者の厳しい方で、資料の作成から物事の見方にいたるまで、いろいろなことを学ばせていただきました。今なんとかやっていけるのも、その経験のおかげだと思っています。
――その他はどんな部署を経験されましたか。
関さん 教学関係では学長室、アドミッションセンター、研究支援センターなど、法人関係では経理課、管財課、100周年記念事業のプロジェクトチームのリーダーや、研究支援、学長室など様々な部署を経験させてもらいました。現在は大学院の実習施設でもある心理臨床センターの統括をしています。
――今回は、常磐大学さんにおける、学生主体の組織TSS(Tokiwa Student Staff/現:コミュニティサービス連合)の活動についてお話を伺いたいと思っています。
TSSが生まれたのは、関さんが学長室時代のことだと聞いています。ラーニングバリューのYouTubeサイトでも拝見した内容と繰り返しになりますが(https://www.youtube.com/watch?v=LcLBxTdL5p0)、なぜこういう組織を立ち上げようと思われたか、その経緯について教えていただいてもいいですか?
関さん TSSが立ち上がったのは2014年ですが、それ以前から、学生の主体性が低下していることに危機感を抱いていました。特に学生サークルは「生まれては消える」を繰り返し、継続性がなくなっていて、「自分たちの代だけ楽しめればいい」という雰囲気もありました。学生同士のつながりにも無関心で、サークルを継続するためのスキルも不足している状況でした。
本来、サークルは帰属意識を育てるうえでとても良い場なのですが、そもそものサークル数が減り、「入りたいサークルがない」という状態になってしまう。そうなると、帰属意識もどんどん低下していきますよね。
――学生の主体性の低下が、「一代限りで活動を終えるサークル」につながることについてもう少し説明していただけますか?
関さん 私は学生と関わる機会が多かったので、「どうしてサークルを継続させようと思わないのだろう」と感じることがしばしばありました。それに、「なぜ自分たちはサークル活動をしているのか」という目的についても、あまり考えていない感じでした。次の世代にどう活動を引き継ぐのか、新入生をどう集めるのか、さらにどう育てていけばいいのか。そうしたことがわからないまま活動している状態だったんです。
私はその状況を「主体性がなくなる」という言葉で表現しましたが、すべてが「なんとなく」で動いているように見えました。
――なるほど。だからどんどん団体がなくなっていくし、学生がやりたいこともやれる場所も見つからなくなる。その結果、大学に滞留する時間も減って、授業終わったらすぐに帰る学生ばかりになってしまうんですよね。
関さん 新入生は、入学してから5月の連休明けぐらいまでは、なんとなくキャンパスにいるんです。でも、居場所がないと、次第に授業が終わったら帰る、という生活になってしまう。そうなると、サークルはもちろん、大学のどんな活動ともつながらない状態になり、帰属意識も生まれません。
この問題を解決するために、学生だけに「頑張れ」と言い続けても難しいんですよ。そこで、学生と教職員が協働して大学を盛り上げる組織をつくろうと企画したのが、TSSの始まりです。
――TSSの立ち上げ時の目的やテーマは何だったのですか?
関さん 立ち上げ当初の目的は「主体性の涵養」で、テーマとして「ワクワクする学生生活をつくる」ことを掲げていました。自分たち自身がワクワクし、さらに関わる学生たちもワクワクできる企画であれば、自由に取り組んでよいと考えていました。
――テーマの間口が広いですが、それは関さん発案ですか?
関さん 当時は、大学改革を行っていて、その中に課外活動の活性化を検討するワーキンググループがあり、そこでさまざまな議論を重ねながら、TSSの構想を提案していったという流れですね。
――立ち上げメンバーはどうやって集めたんですか?
関さん TSSが発足する前、ラーニングバリューさんのリーダー研修で同じグループになった学生に、とても良い子がいたんです。当時2年生だったのですが、その学生にTSSの構想を話したら、ぜひやりたいと言ってくれました。さらに、その学生の友人数名と一緒に食事をしながら説明する機会をつくりました。結果的に、彼らがTSSの1期生になってくれました。
その後、全学生に組織の立ち上げを広報し、説明会を実施してメンバーを公募したところ、最終的には1年生から4年生まで70名近くが集まりました。実は、公募時には「応募者ゼロでも、最初の数名が核となって周囲を巻き込んでいけばいい」と思っていたので、これほど多くの学生が集まったのは想像以上でした。
――なにかやりたくてウズウズしている学生も結構いたということですね。
関さん 新たな組織だと先輩がいないこともあって、参加しやすかったという理由もあったのだと思います。最初に集まった1期生は、やる気もあって、優秀な学生が多かったですね。
――TSSはその後、どのように発展していったのでしょうか?
関さん 立ち上げ当初は、TSSという大きな枠組みの中に活動団体が位置づけられ、各団体が教学関係の部署と連携して活動することを前提としていました。TSSの核となり、主に学生・教職員を対象にさまざまな活動を推進する「TSS支援チーム(学生支援センター)」、魅力ある図書館づくりや利用率向上をめざす「図書館サポーター(図書館)」、そして留学生のサポートなどを行う「国際センターサポーター(国際交流語学学習センター)」の3団体でスタートしました。
その後、さまざまなボランティア活動を通じて社会貢献をめざす「トリコロール」、学生生活をより充実させるための情報フリーペーパーを制作する「くるり編集部」が新たに加わりました。
――TSSって既存の学生のピアサポート組織をまとめたものではなく、学生の主体性を涵養するような学内のいろんな仕事や役割を掘り起こして、そこに興味のある学生がピアサポートとして参画できるようにしたということですね。
関さん はい、ゼロからつくり上げた組織です。ですから、立ち上げの際には教職員も公募したんですよ。特に職員の場合、連携部署には担当者がいますが、人事異動によって担当が変わることもあり、そのたびに担当者の意識が上下する可能性があります。それは学生にとって迷惑になりかねません。そこで、連携部署にかかわらず自ら手を挙げてくれた職員には、上長の許可を得たうえで、TSSを支えるスタッフとして参加してもらう形をとりました。
――なるほど、学生さんだけでなく、職員の主体性の涵養にもつながると考えたわけですね。
関さん 実現はしていませんが、SDの観点からも、新任研修の一環としてこの活動に参加して欲しいくらいです。大学に勤めていても、会計や人事など、学生とほとんど関わらない職員もいます。TSSを通じて学生と一緒に活動し、今の学生が何を望んでいるのかを知る機会として活用できるのではないかと思うんですよ。そうすると、たとえば会計の部署でも、「このお金の使い方は学生のために適切に執行されているのか」といった視点が生まれてくるのではないか、と。教職員が存在できるのも学生あってこそですから、その点はやはり知っておいてもらう必要があると感じています。
――面白い発想ですね。私もいろいろな大学を見てきましたが、アドミッションにずっといる方や、人事経理一筋という方など、一つのルートを極めていく大学人のほうが多い印象があります。ゼネラリストを育成している感じはありませんよね。ですが、キャリアパスの壁をぶち破ってリアルな学生生活に近づくことで、自らの業務ももう少し広い視点で見られるようになるのではないか?関さんはそういうことも考えていらっしゃるんですね。
関さん 若いうちにそうした意識を醸成したいという思いは、当時から強く持っていました。人事異動だけでキャリアパスを描くのは、なかなか難しい面もありますから。
――先ほどTSSは「教職員と学生が協働」する組織だとおっしゃっていましたが、関さんがイメージしていた学生と教職員の関わり方とはどのようなものだったのですか?
関さん 「協働」と言いましたが、あくまでも私たち教職員の役割はサポートです。学生はどうしても視野が狭くなりがちなところがあります。たとえば、何か企画を立てる際にアイデアは出てくるのですが、教職員の役割はその視野を広げたり、選択肢を増やしたりすることだと考えています。そのうえで、最終的に選ぶのは学生です。そして、選んだ以上は責任を持って最後までやり遂げてもらいます。
また、外部とのつながりが多い活動など、大人が前に出たほうがよいケースもあります。たとえば、ボランティア団体からの依頼については、まず教職員側で信頼できる団体かどうかを見極める必要があります。私自身も外部のさまざまな団体とつながりを持ち、「こういう面白い案件があるけれど、やってみる?」と紹介することもあります。それもあくまで選択肢の一つで、強制ではありません。学生が面白いと感じたり、興味を持ったりするものであれば取り入れる、というスタンスです。
――教職員がもっているネットワークや知見も選択肢として提示することもあるが、あくまでも学生の主体性をサポートする役に徹するということですね。
ちなみに、コロナ禍はどのような状況だったのでしょうか?
関さん コロナ禍となり、大学の活気は一気にガクンと落ちてしまいました。当然、サークルも活動は禁止されて動けない状態だったので。そんな中でも、TSSの団体はSNSやオンラインを駆使して、むしろ活発に活動していましたね。
――具体的にはどのようなアクションを起こしたのですか?
関さん 普通のサークルは、どこも「何をしていいのかわからない」という状態に陥り、動けなくなってしまったんです。その点、TSSではコロナ禍でもできることを考え、一つひとつ具体化していきました。当時は新歓や交流会などをすべてオンラインで実施していましたね。
一番所属人数が多い「トリコロール」は、通常は登録メンバーが50~60人程度なのですが、ある時期には150~160人にまで増えたことがありました。
※肩書・掲載内容は取材当時(2026年4月)のものです。



