連載4-3/「チーム」の視点が教育と研究を変える。他者とのつながりが開く教員キャリアの可能性【特別編 大学の学びあい】
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神戸常盤大学の初年次教育「まなぶる▶ときわびと」(以下「まなぶる」)を中心に、大学におけるチームビルディングの実践の様子を紹介してきた本連載。最終話では、京極重智先生(教育学部 こども教育学科 講師)ご自身の教育観や研究活動に起きた変化にフォーカスします。「まなぶる」での7年間の経験は、京極先生の中に「チーム」という新たな視点をもたらしました。それは専門科目である「教育の思想と歴史」の授業に導入した「哲学対話」の実践や、学科の枠を超えた教員の関係性の構築が、新たな研究フィールドの開拓にもつながっているそうです。組織開発が個人のキャリアにどう影響するのか。そして、「まなぶる」の今後の展望について話を伺いました。

――京極先生が7年ほど「まなぶる」を担当されてきて、ご自分にとってプラスになっていることがあるとしたら、どんなことでしょうか。
京極先生 多すぎて回答に悩みますが、やっぱり「チーム」という観点を持てたことは、自分の中では大きな学びの一つです。
――普通に講義をしているだけでは、あまり出てこない概念ですもんね。
京極先生 「グループ」や「班」といったものはありますけど、それとは違うもの。企業にいる方のほうがイメージできるかもしれませんが、大学にいるとそこまで「チーム」を強く感じることがありませんでした。
――大学は個室文化が強いですものね。
「まなぶる」で体験したチームビルディングの要素を、ご自身の授業の中に取り入れたりしていることはありますか?
京極先生 先ほどお話しした「STEP Project」は授業の枠でやっているので、チームビルディングや「まなぶる」の手法を取り入れていると言えます。
もう一つ、チームビルディングといえるかどうかわかりませんが、最近、教職課程の「教育の思想と歴史」という授業で、「哲学対話」を取り入れる試みを始めました。これは、歴史的な教育思想家、例えばルソーとかペスタロッチとか、そういう人たちの思想を学ぶ科目なんですが、基本的には完全に座学なんです。そこで、授業におけるチームづくりを意識しながら、ある問いを立てて、みんなで考える機会を設けています。
――面白そうですね。「哲学対話」の説明も含めて、もう少し具体的に教えてもらってもいいですか?
京極先生 ここで言う「哲学」は、先人の哲学者たちについて学ぶという意味ではなく、シンプルに「問いについて考える」ということです。問いについて、自分で考えて、発言する、相手の考えを聞くという対話の活動を「哲学対話」と言うんです。
授業では、まず講義を3~4回やって、その中で思いついた問いを毎回レポートに書いてもらって回収していくんですね。そして、それらを集約していくつかの大きい問いに変えて、対話したい問いを選ぶんです。

[哲学対話で考えてみたい問いの候補]
京極先生 これは1回目の哲学対話の時のものですが、この時は6つの問いが出たんです。「人格形成としての教育は何を教え、育むのか」とか、「様々なことを学ぶことと特定の領域を集中して学ぶことについて、どちらが将来役に立つのか」とか。あと、「なぜ人は大学生にもなって、たかが1時間半黙って人の話を聞けないのか」とか(笑)。「AIが今以上に普及すると、人は考えるということをするのだろうか」。「余暇と仕事、どっちを豊かにする方が良いか」。
授業内容に即したものでいえば、古代ギリシャの思想家についての「ソフィストとソクラテス、どちらの考え方がこれからの世界に重要なのか」というものもあります。
第1回目は「余暇と仕事、どっちを豊かにする方が良いか」という問いで哲学対話をしました。

[決定した問いとルール]
――どんな風に進めていくのですか?
京極先生 授業では人数が多いので、哲学対話の一つのやり方で、「金魚鉢(フィッシュボール)方式」のやり方で進めました。「対話する組」と「観察する組」に分けて、中心に対話する組が座って、観察者はそれを囲むように座って、話を聞いてメモして観察していきます。哲学対話自体は「考えること」が大事なのであって、「発言すること」が大事なわけではないのでこのやり方で進めます。
――観察者には、自分で考えるだけでなく、何らかの役割も期待しているのですか?
京極先生 基本的には発言のメモを取って、観察した側としての記録を取ってもらっているので、それをフィードバックします。今年は「この方法が座学形式の授業に取り入れられるか」の試みだったので、それについては可能であることがわかったので、来年度もできたらなと思います。
次年度の課題は、観察者と中心で話す人たちのつながりや、観察者の役割、フィードバックをどうするか、ですよね。確かに、チームビルディングという観点からは、もう少し検討の余地がありそうです。
――これは余談ですが、チームビルディングには「PoPoPo(ポポポ)」という手法があって、哲学対話の方法とすごく似ていると思いました。これは Participant(参加者)と Observer(観察者)に分かれてグループ活動を行って、その後、役割を交代。次は、最初に観察者だった人が「観察したこと」をテーマに話し合い、参加者だった人がその様子を観察するというものです。考えることを重視する哲学対話とは違って、「誰々さんの発言って面白かったよね」とか「あの人は黙っていたけどすごくメモ取ってたよね」とか、観察したことがその場で出てくるんです。これもチームビルディングを進めるための一つの手法と思っていただいいてよいと思います。
京極先生 哲学対話でも同じように観察者、参加者を入れ替えたりはします。ただ、「観察した内容について話し合う」というのはチームビルディングっぽい手法だなと思いました。哲学対話では、観察者と参加者を入れ替えても、同じテーマで対話を行いますので。
――もちろん、観察するだけでも、いろいろと感じるところはあるでしょうから。
京極先生 PoPoPoのほうが対話の問いの立て方がチームビルディングっぽいし、メタなところで話をしてチームビルディングを促すというのが面白いですね。
――観察と言うことでは、「まなぶる」を見学した松山東雲女子大学の教職員の方は、先生方が学科の枠を超えて協働しておられることを観察されて大変驚いておられましたが、そういう場があることで、何か京極先生が得たものはありますか?
京極先生 他大学の状況を私は全然知らないので、本学がどれだけ特徴的なのかわかりませんが、間違いなく視野は広がったし、他の学科の先生とも関わりやすくなりました。別の仕事の場でも話しやすくなったりとか、全然違うフィールドにつながりができたり機会があったり、ということはものすごくあります。
――違うフィールドにつながる機会、とはどんなケースがありますか?
京極先生 最近、「まなぶる」でペアを組んだ看護学科の先生から、地域で高齢者が集まって進行役が紹介する本の内容について語りあう実践を紹介していただいて、毎月そこに参加しています。今はまだ、研究に関わりがあるわけでもないですが、いずれそこに何か芽が出ていけばいいなとは思っています。
――従来では知り得なかったところに研究のネットワークやルートができていると。
京極先生 それは、あると思います。当たり前のことかもしれませんが、人とのつながりができることで、仕事も研究も教育も広がっていくので。そういう意味でもチームビルディングや「まなぶる」が生み出しているものは、単なる初年次教育だけにとどまらないと感じています。
それと同時に、教員同士のチームビルディングが本当にできているかといえば、当事者としては「そうかな?」と思うこともあります。
――他の学校の先生方から見れば、学科横断で自由に意見を交わしあう風景は驚異的かもしれませんが、その中にいる京極先生にとっては、「まだまだ行ける」と思われているわけですね。
京極先生 あの場があるのは、「まなぶる」を立ち上げて、今も責任者を務めておられる光成先生の力があればこそ。まだまだ今は属人的な取り組みである気がします。それをいかに属人的にならない体制に移行できるかが、今後のカギになるのではないでしょうか。
★神戸常盤大学の「まなぶる」の取り組みは初年次教育学会第17回大会のラウンドテーブルにおいても発表されています。以下よりラウンドテーブルでの発表資料をご覧いただけます。
※肩書・掲載内容は取材当時(2025年11月)のものです。

松山東雲女子大学の先生方が神戸常盤大学に見学に来られた時、両大学の先生方の懇談の場で、まなぶるの発展形として京極先生らがお考えになったSTEP Projectについてのお話がありました。その際に松山東雲女子大学の先生から質問が出た場面が私にはとても印象的でした。曰く「STEP Projectはゼミ活動とはどう違うのですか?」と。京極先生は少しきょとんとされていらっしゃるように私には見えました。京極先生達にとってSTEP Projectはゼミ活動とは全然違うように思われていたからだと思います。でも初めてSTEP Projectについて説明を受けた先生には、その違いがよく分からない。一体どういうことなのでしょうか。
そのヒントは今回の京極先生のインタビューの中にあるように思います。インタビューの中で京極先生は以下のようにおっしゃっています。
『人が集まって何かをする時に、「役割」とか「タスク」を上から与えてしまったら、運営側は楽だ、ということ。でも、それをやってしまうと、「言われたからやる」、逆に「やる気が出ないからやらない」、あるいは「分担されたこと以上はやらない」という人がどうしても出てきてしまう』
『STEP Projectでやろうとしているのは、「本当のチームをつくる」ということです。まず、学生が「どうしたいか」を徹底的に話し合う場をつくります。とにかく時間をかけてコミュニケーションをさせて、教員採用試験対策やキャリア形成に取り組むためのチームを自分たちでつくっていくんです。』
『(教員は)学生の動きに対して積極的なストローク(≒応答、反応)を返していかないと成立しないんです。しかも、これはノウハウにはできないんですね。各年で本当にチームの出来上がり方が全然違うんですよ。やり方だけを文書化して「こうしたらオッケーですよ」というものが作れないので、ノウハウものの教育方法としては導入しにくいだろうなとは思います。』
『その人(教員)自身のあり方でファシリテーションもチームビルディングも変わっていくということは、7年間の「まなぶる」の経験でも感じていることです。』
チームビルディングの特徴がこの言葉に表れていると思います。自分自身のあり方への理解(=自己理解)が深まっていくと、チームビルディングのファシリテーションに活きてくるということなんだと思います。北森先生がその著書の中で書かれていた「チームビルディングとは自己理解、相互理解、目標統合のプロセスである」と言うことなんだと改めて感じました。



