連載4-2/「徹底的な学生主体」への挑戦。教員採用試験対策×チームビルディング【特別編 大学の学びあい】
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初年次教育「まなぶる▶ときわびと」(以下「まなぶる」)で培ったチームビルディングのノウハウは、学生のキャリア支援にも応用が試みられています。2024年度からスタートした「STEP Project」は、教員採用試験対策にチームビルディングを取り入れ、「徹底的な学生主体」で行われる授業です。なぜ、試験対策にチームビルディングなのか。そこには、「役割分担」だけでは育たない「本当のチームづくり」への思いが伺えます。そして、松山東雲女子大学からの視察で浮き彫りになった「学科横断」の意義とは。効率性や専門特化とは一線を画す意欲的な試みに取り組む、京極重智先生(教育学部 こども教育学科 講師)の教育哲学に迫ります。

――前回のお話の続きですが、京極先生のコンテンツチームができるまでのプロセスの話をもう少し話題にしたいと思います。私たちは何かのプロジェクトを始めようとすると、まず役割を決めて始めようとしがちですが、それがチームビルディングの妨げになることがある。なぜそんなことが起こるのか、すごく興味があります。
京極先生 ちょっと話がずれるかもしれませんが、私たちは教員採用試験対策にチームビルディングの考え方を取り入れて、2024年度から、「STEP Project」という協働学習に取り組んでいます。
その中で思うのは、人が集まって何かをする時に、「役割」とか「タスク」を上から与えてしまったら、運営側は楽だ、ということ。でも、それをやってしまうと、「言われたからやる」、逆に「やる気が出ないからやらない」、あるいは「分担されたこと以上はやらない」という人がどうしても出てきてしまう。なんだか冷たい、ビジネスライクな感じの集団になってしまうんです。
だから今、STEP Projectでやろうとしているのは、「本当のチームをつくる」ということです。まず、学生が「どうしたいか」を徹底的に話し合う場をつくります。とにかく時間をかけてコミュニケーションをさせて、教員採用試験対策やキャリア形成に取り組むためのチームを自分たちでつくっていくんです。そこで何が大変かというと、とても時間がかかるのと、教員側がかなり綿密に関わっていかなきゃならないということです。
――学生に任せているように見えて、実は先生方の負担がかなり大きいと?
京極先生 学生の動きに対して積極的なストローク(≒応答、反応)を返していかないと成立しないんです。しかも、これはノウハウにはできないんですね。各年で本当にチームの出来上がり方が全然違うんですよ。やり方だけを文書化して「こうしたらオッケーですよ」というものが作れないので、ノウハウものの教育方法としては導入しにくいだろうなとは思います。
――そういった授業のやり方だと、ファシリテーションにその先生の「生き方」とか「あり方」とか、態度やスタンスにその人の持ち味が出てくるので、ノウハウにできないという意味ですよね。
京極先生 おっしゃる通りです。「まなぶる」でも、「いいな」と思う先生のやり方をお手本にしてもいいけど、「同じことをしても、自分がうまくいくかどうかはわからない」んですよね。その人自身のあり方でファシリテーションもチームビルディングも変わっていくということは、7年間の「まなぶる」の経験でも感じていることです。
――試験対策って、本来は個人の努力次第のものですよね。そこにチームビルディングを取り入れているというのはどういうことか、もう少し詳しくお聞かせください。
京極先生 今まで大学での教員採用試験の、特に筆記試験対策って、例えば、教職支援センターが中心となって支援プログラムを提供したり、模試をやって、成績の悪い子は呼び出してコメントしたり問題集を配布したりとか、そういうことをやってきたと思うんです。
でも、そうやって周囲が色々設定するやり方はどうなんだろう、ということで、「まなぶる」を参考にして生まれたのがこの「STEP Project」です。
※STEP:Support、 Teach、 Empower、 and Prepare の略
このプログラムでは、勉強の仕方なども、全部学生が考えて、PDCAサイクルを回す。まるで企業のプロジェクトみたいですが、月に1、2回みんなで集まって、今までの進捗を共有しながら、次にどうするかを考えています。
スライドにある授業の写真を見ていただくとわかりますが、前に立って進行しているのも、話を聞いているのも全部学生です。

[松山東雲女子大学が授業見学で来訪した際に、説明に使用されたスライドより(京極先生作成)]
――参加者は何年生ですか?
京極先生 異学年間の結びつけもねらいの一つで、スタートは2年生なんですが、3年、4年とやっていくので、上下の学年でやり方を共有することができます。こういうプログラムって、前年のやり方を丸ごと活かせるわけではないので、先輩が「どういうことで困難を感じて、どんな風に対処したか」という経験知を共有するようなこともしています。
STEP Projectでは学生主体で取り組むとともに、教職員や教職支援センターによるサポートの活用も勧めています。
――スライドのプログラム概要の真っ先に書かれていたのは「徹底的な学生主体」でした。それが1番目に来ているということにも、私はすごい意味を感じているのですが。
京極先生 この背景には、私が「1年生で『まなぶる』を経験したにもかかわらず、学生たちはチームビルディングのことがわかってない」と感じた経験があります。例えば学年間やクラスの中で人間関係のトラブルがあると、自分たちでなんとかできるはずなのに、すぐに教員に「なんとかしてください」って頼ってくるんですよ。「あなたたち『まなぶる』でもチームを作って学んだはずなのに、何もわかってないじゃん」ってなって(笑)。
そこで、2年生以降でもチームで何か取り組んでいけそうなものがないか考えて、まさにその対象になりそうなのが、教員採用試験対策だったんです。
本当は自分たちでやっていった方がいいはずなのに、できていない。明らかに教員主導で行われていた。そこで、徹底的に学生主体でやっていきたいと考えて生まれたプログラムではあります。

[松山東雲女子大学が授業見学で来訪した際に、説明に使用されたスライドより(京極先生作成)]
――「徹底的な学生主体」を掲げて、その通りに学生ができれば話は早いのですが、最初はやはり「何したらいいの?」と受け身になってしまいませんか? そのあたりで工夫されていることはありますか?
京極先生 私の場合は、まずは学生に投げます。極力口を出さずに「どうしたらいいと思う?」と考えてもらいます。そうすると、その混乱の中でも学生はなんとかやり出そうとするんですよ。そこで何が出てくるかを見ながら介入するようにしています。
――混乱している様子をご覧になって、楽しんでおられる?(笑)
京極先生 いやいや、しんどいですよ。あらかじめ決められた手順のもとで、「何月何日に勉強会をします。このぐらいの模試では何点くらい取りましょう。そのために勉強時間をどれくらいやればいいか」ってコントロールした方が、教員としては圧倒的にやりやすいし気楽なんです。対して、学生主体にさせると何が出てくるかわからない。それがしんどさであり、楽しみでもありますね。
――今年10月に松山東雲女子大学さんが「まなぶる」の見学に来られました。その時に、光成先生と大城先生、京極先生には簡単に「まなぶる」の説明をしていただいたのですが、いろいろと松山東雲女子大学の方からも質問が出ましたよね。その時のやりとりで印象に残っていることなどあればお聞かせください。
京極先生 東雲さんには東雲さんなりの、今までの伝統があるんだなと思いました。「まなぶる」は、多学科で協働してやっていくスタイルですが、東雲さんの場合は、もともと一緒にやっていたけれど、学科に分かれちゃったっていう話を聞いたんですね。だから今はそれぞれの学科でやっている、と。その辺りのことを聞いて、大学ごとにやり方は違うんだなと思いました。だから、「まなぶる」を参考にするにしても、「多学科をごちゃまぜにする」のではないやり方になるのかなと思いました。
――私も他大学の事例で思い当たることがあります。以前、ある大学で学科を超えて初年次教育をやっていたのですが、予算の関係やさまざまな障害もあって、神戸常盤大学さんほどチームビルディングをベースにしたプログラムが実現できなかったんです。その後どうなったかというと、まさに今おっしゃったように、学科ごとに分かれていったんですね。最初は全学で導入したんですが、次第に「うちの学科の子たちにはもっとこんなこと教えたい」という声が出てきて、参加しない学科が増えていったんです。
京極先生 本学でも、「なんでいろんな学科と混ぜてやるの?」という雰囲気を感じることはあります。「まなぶる」を担当されていない先生方からなんですが…
――専門教育に特化した方が効率的で有効だという意見もあるでしょうね。
京極先生 これからの社会では、いろんな人が関わって取り組まなきゃいけない活動がどんどん増えていくのではないでしょうか。今までの手立てではどうしようもない社会的課題が増えている中、同じ学科の同じ専門の人たちの集まりなら専門性は追求できるんですけど、それだけでは今までの手法や範囲でしか対応できないような気がして。未知のものが出てきた時に、全然違う人たちと解決法を作っていかなきゃいけないってなった時に、いろんな人たちが協働していく力というのは求められると思うし、今後を見通して大事にすべきだと私自身は思っています。
もちろん、「将来現場に出てからのチーム医療・チーム学校に役立つ」とか、そういう実利的な根拠付けもしているんですが、そういうことを言い始めると、再び専門分化していくおそれもあります。リテラシーの土台をつくる初年次教育で、自分の専門とは違ういろんな学科の人が集まって、みんなで何かに取り組むという形は大事にしていきたいんです。
――専門に寄っていくのは悪いわけじゃないけど、それ一辺倒になるのではなく、ということですね。
京極先生 多様な専門性だけでなく、フラットな関係における協働性を大事にしていきたいとは思いますね。
――教員採用試験対策のSTEP Projectも、まさにそういう「専門外の協働」の要素が含まれていますよね。
京極先生 STEP Projectの話をした時に、松山東雲女子大学の方からは「これってゼミ活動ですよね?(ゼミでやったら良くないですか?)」みたいなことを言われたのですが、自分はあんまりピンとこなくて。私は「ゼミにしてしまうと担当教員によって出来がまったく変わってしまう」と説明したんですけど。チームビルディングって、見ただけでは伝わらない部分があるのかなっていうのも感じました。
――目的達成のためには、専門分化して徹底的にやるほうが効率よく見えるからかもしれません。
京極先生 もちろん、教員採用試験対策については専門分化されているように見えますが、今後はキャリアを問わず取り組めるような課題にチームで取り組んでいく必要性もあると考えています。本学では、採用プロセスが異なるので、一般就職チームは採用試験対策チームと分けてはいるんですが、例えば面接対策などは一緒にやっています。例えば「あなたの強みは何ですか」というような、どこでも質問されるようなことについては、みんなで取り組んでいます。
――反対に、東雲さんに見学に行って聞いてみたいことはありますか?
京極先生 ぜひ行ってみたいですね。これはちょっと話が大きくなるんですけど、東雲さんって確か愛媛県内で保育者養成を行う2、3校の中の1つなんですよね。今、高等教育機関が統廃合されていこうとしている大きな変化の中で、東雲さんは共学化に舵を切られていますよね。そういう大学経営の部分も見たいですし、「大学経営の中でチームビルディングをどう価値付けていくのかな」っていうのを見たいっていうのは非常にあります。
――大学経営にも関心をお持ちなんですね。
京極先生 本学の「ときわ教育推進機構」の委員として、私は基盤教育のワーキングチームに入っています。その仕事を通して、高等教育改革の必要性や、大学の生き残りなどの課題の大きさを感じるようになって。これは、研究者としてではなく、業界の人間としての関心ですね。
私立大学、しかも小規模校では教育にどんな特色を提示していくかってすごく大事になると考えています。本学は専門職養成校ですが、少子化で市場規模が縮小していく中では、ただ免許をとれるだけでは差別化ができない。今は「まなぶる」がプラスアルファになる特色といえますが、基盤教育についても本学を特徴づけるような見直しができたらいいなと考えています。
(連載4-3へ続く)
※肩書・掲載内容は取材当時(2025年11月)のものです。



