連載3/職員が見た「教職協働」。組織の壁を越える対話が大学を変える【特別編 大学の学びあい】
- odlabo
- 1 日前
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前回に続き、松山東雲女子大学による神戸常盤大学の初年次教育「まなぶる▶ときわびと」(以下「まなぶる」)見学の模様をお届けします。学生も教員も学科横断でチームを編成して行われるユニークな授業に対して、前回は教員の視点からの気づきを紹介しましたが、今回は「職員」の視点にスポットを当てます。お話を伺ったのは、事務局次長・藤田美穂さん。学園内中学・高校での勤務経験もある藤田さんは、職員室で教職員が密に連携する中高の環境と比べ、大学特有の「専門の壁」にもどかしさを感じていたようです。専門の壁を越えた教職協働の姿は、藤田さんの目にはどのように映ったのでしょうか。2028年の男女共学化を控えた変革のタイミングで行われた他大学の授業見学。教員同士が本音で語り合う姿にイノベーションのヒントは得られたのでしょうか。

――まず、藤田さんのこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますか。
藤田さん 私は松山東雲女子大学の卒業生で、大学の就職支援、経理、教務課などを経験し、直近の9年間は中学・高等学校の事務長を務めていました。2025年の4月に大学に戻り、事務局の次長を務めています。入職以来、学校法人全体の仕事を幅広く経験させてもらったという感じです。
――今回の見学ツアーは、どのような経緯で行われたのですか?
藤田さん 学長や副学長、事務トップが出席する会議で「見学しよう」という話が出たのは、開催の2ヶ月ほど前。そこから教授会に降ろし、皆さんにお声かけできたのが1ヶ月前ぐらいでした。直前でのご案内になり、調整がつかない先生もいらっしゃいました。
私自身は、大学にイノベーションが起きるような環境つくりが必要だと感じていましたので、先生方に現場を見ていただくのと同時に、事務局はどのように支えているのかについても聞いてみたいと思い、参加しました。
――「まなぶる」について、藤田さんは特にどのようなことに関心があったのでしょうか。
藤田さん 学長からは「学生の協働」という説明がありましたが、私自身は、先生方が協働されていることの方が、大学のイノベーションに繋がるのではないかと感じていました。中高での経験があるからかもしれませんが、教員同士のイノベーションの方にすごく関心がありましたね。分野が違う先生方が、一つのことに対してどこまで話ができているのか、肌で感じてみたかったのです。
――大学と中高では、教職員の関係性も大きく異なりますか?
藤田さん そうですね。中高は職員室が一つで、先生方との交流は日常的にありますし、何かを一緒にやる際も、職員が入っていくハードルは低かったように思います。
それに比べると、大学は各学科・専攻単位では一生懸命取り組んでいる反面、それ以外との繋がりが表面的になりがちで、皆さんが語り合ったり、刺激し合あったりできる場が少ないのではないかと感じていました。ですから、神戸常盤大学さんが活発に活動されていると聞き、ぜひ現場を見てみたいと思ったんです。
――当日はバスで往復8時間ぐらいかけて見学に来られたんですよね。13時の授業開始前に先生方が集まって30分ほどミーティングされますよね。その様子はご覧になりましたか?
藤田さん 皆さん、わりと砕けた感じでお話しされていましたし、核になる先生方がお若いなと感じました。その後、「まなぶる」について説明を受けたのですが、印象的だったのは、仕組みだけでなく、「大変さ」も率直に語っておられたことです。「少ない人数でつくってきたが課題にぶち当たった。そこから他の分野の経験者がヒントをくれ、自分の考えだけでつくるより、さらに変化したのが良かった」と。まさにそれだ、先生同士が本音で話し合い、いろんな分野の方が知恵を出し合うことはすごく大事だ、と感じました。
――授業中の学生たちの様子はいかがでしたか?
藤田さん 1年生の割にはグループ内で一生懸命話ができているな、という印象です。学生自体の雰囲気は本学の学生とそんなに変わらないと感じましたが、いろんな学部・学科の子がいるのに、学生同士が「安心して自分の意見を言っていいんだ」という空気を感じました。
今の学生たちは、一人ひとりはちゃんと意見を持っているのに、話し合いになると「こう言ったら相手はどう思うだろう」と遠慮し合う風土があるように感じます。特にコロナ禍で、中学・高校時代にうまく表現する場がなかった子たちなので、余計にそういう面はあるかもしれません。
――「まなぶる」にはチームビルディングも取り入れていて、それは、教員が一方的に引っ張っていくのではなく、学生同士が自分たちで安心の場をつくるための仕掛けだと思っています。いくつかの教室をご覧になって違いは感じましたか?
藤田さん 確かに、先生の雰囲気づくりややり方は違うのかもしれませんが、全般的にあまり堅苦しくならないように意識しているんだろうと感じました。
――マニュアルをつくって暗記ロボットのように「この通りにやってください」にすると、先生の持ち味が消えてしまうんです。チームビルディングの構造を理解したうえで、セッションや問いかけを自分なりにやっておられて、そこにその先生の持ち味が出ているんだと思います。
藤田さん マニュアルが全然なくても困るけど、ある程度はお示しする、というさじ加減をすごく考えておられますね。先生方が「発表させる」のではなく、学生が「自発的に発表する」雰囲気をつくろうと努力されているように伺えました。
――よく見ておられますね。「まなぶる」では自律性、自発性をすごく大切にしているのですが、それをいかに促していくかは、各先生の持ち味に委ねられています。みなさん、ご自分のやり方でそれを実現しようとされているんです。その他に何か気づいたことはありますか?
藤田さん 授業終了後の先生方の「振り返り」も、実際にひとつのグループに入らせていただいたのですが、先生方が、教えることに満足しているというより、「学生がどう反応したか」という点にものすごく意識が向いていると感じました。「学生がこんな反応だったから、次はこうしてみよう」とか、「自分のクラスではこうだった」とか。視点が学生にあり、それについて先生同士が結構フランクに話されていて。
――そういうざっくばらんに意見交換しあうような場は、藤田さんが中高の事務局にいた頃にはあったんでしょうか?
藤田さん そうですね。1人の生徒の問題に対処する場合でも、教員がみんな一つの場所にいるので、担任だけに背負わせない雰囲気はあるのかもしれません。大学は研究室があって、なかなかそういう環境をつくりにくいですから。こういう話し合いや、物理的に集まれる「場」は本当に大事だなと思いました。
――藤田さんは事務の職場も見学されたそうですね。
藤田さん はい。学生支援の部署では、就職支援なども含めて全て対応されているようでした。学生規模に対して職員さんが非常に多いわけではないのに、これができるんだな、と。むしろ本学は過保護で、いろんなことを提供しすぎているのではないかと感じました。ただ、1歩を踏み出してもらうために、「ちょっと背中を押してあげる」はしてあげたいんです。それが、「首輪をつけて引っ張る」になるとやりすぎですが。
――学生の自律性、主体性を育む上で、大学がどこまで手を差し伸べるかは難しい問題です。学生のチームビルディングで学生同士がサポートしあう形をつくっていくと、教職員が学生のフォローやサポートを減らせることにもつながるかもしれない。私はそんな可能性を神戸常盤さんと関わる中で感じるようになりました。今回の見学の気づきを、事務局としてどう活かしていこうとお考えですか?
藤田さん まずは、私たち職員自身がチームビルディングできるようになるのが大事なので、課を超えたチームでの取り組みをしようと考えています。これまでは各課内で業務が完結しているところがありましたが、10月からは、学生支援とキャリア支援を一つの部屋にするなど、課を越えて対応できる状況をつくることになりました。私たちの部屋には教務と入試がいるので、入試課員は、カリキュラムの詳細を理解して、高校生に伝えられるようにしようとしています。物理的に近い場所で業務が重なる状況をつくっていきながら、小さいところでどっちの業務もできるようにする。そして、ゆくゆくは企画に対して各課から集まったメンバーでチームをつくり、プロジェクトにも取り組めるようにしていきたいと考えています。
――教職協働については、いかがでしょうか。
藤田さん 先生方の理想も大事ですが、「こういう学生を育てたい」という目標に対し、「そのカリキュラムは本当に必要ですか」という冷静な議論も必要だと思うんです。学生と直接接する職員だから見える姿と、教員が授業で見る学生の姿は違う部分があるはずです。その違いを、もっとしっかり話し合える雰囲気にしないといけないと感じています。
本学は2028年に共学化と小学校教員課程の設置を控えており、これを大きなチャンスだと捉えています。全学的に協力し、先生方同士はもちろん、私たち職員も含めてみんなで取り組まなければ実現できません。
――見学後、学内ではどのような反応がありましたか?
藤田さん 職員からは「先生同士本音の意見交換が必要だ」という声が上がりました。先生方も「教員同士が繋がれるものが必要ではないか」と感じられたようです。とはいえ、先生方の、「私がやりますと手を挙げて、自分ひとりだけがやらねばならなくなったら大変だ」という気持ちも分かります。授業を担当するとなると覚悟がいりますから。
そういう意味では、私たち職員の方がまだ軽い気持ちで見学できた、という側面はあります。でも、神戸常盤大学の先生方も本学に来てみたいとおっしゃっていたので、次回はこちらに来ていただいてもいいかもしれません。ざっくばらんに話す機会ができれば、今回、見学できなかった先生の中からも変化が生まれるかもしれません。
――藤田さんが「学生中心」や「教職協働」を意識されるのは、やはり中高でのご経験が大きいのでしょうか。
藤田さん そうですね。中高では、一人の生徒に対するアプローチを、生徒中心に考えて、いろんな先生が関わって多角的に話ができていたように思います。
今の学生たちは、自分よがりの授業だとか、自分の考えを押し付ける指導では納得しない世代になっていると感じています。ただ、信頼関係ができた時の心や行動の変化はすごく大きい。これはどの現場にいても感じることです。
――前回取材した鏡原先生も「こんなに手厚くサポートしている大学はないのでは」とおっしゃっていました。
藤田さん ええ、先生方はお一人おひとり、本当に一生懸命です。だからこそ、「そんなに一人で抱え込まなくていいのに」と思うことがあります。もっと情報を共有し、「あなたのことはみんなで支えている」「ここでは誰に頼ってもいいんだ」と思えるような、温かい雰囲気をつくっていきたいんです。本学は、愛媛に根ざして、地域の子どもを教育する人材を育てる大学です。学生自身がここで「安心できる環境」を肌で感じることで、将来社会に出た時に、今度は自分が子どもたちに安心感や優しさを与えられるような先生になってほしいと願っています。

藤田さんとの対談では、大学における職員の役割についても考えさせられるものでした。印象的だったのは先生方に対する「そんなに一人で抱え込まなくてもいいのに」と言うお気持ち。やはり職員側から見てもそう見えることがあるということなのでしょう。特に藤田さんは中高の事務長も担われていらっしゃったので、余計にそう感じられたのでしょう。仕事がお一人に偏ってしまったり、孤軍奮闘で頑張っておられる先生を、私共もよく拝見します。これも前回述べた「個室文化」の特徴なのかもしれません。その課題に対して職員は何ができるのか。そういう意味では、神戸常盤大学のまなぶるを見学された職員の方々から「先生同士本音の意見交換が必要だ」と言う声が上がり、先生からも「教員同士が繋がれるものが必要ではないか」と感じられたことが、今回の「まなぶる見学ツアー」の最大の成果だったのかもしれません。



