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学校の組織開発物語

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連載1-2/大学の「個室文化」をこじ開けろ。教職員のチームビルディングで教育はもっと面白くなる【特別編 大学の学びあい】

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神戸常盤大学の初年次教育「まなぶる▶ときわびと」(以下「まなぶる」)は、学生の学びを変えるだけでなく、関わる教職員にも静かな変革をもたらしています。


2024年、2025年の2回にわたって愛媛県の松山東雲女子大学の教職員グループが、この授業を視察に訪れました。そこで彼らが目撃したのは、学生の主体性を引き出すために学科の枠を超えて協働し、オープンに意見を交わし合う教職員の姿でした。


前回に引き続き「まなぶる」担当の大城 亜水先生(こども教育学科 講師)にインタビュー。他大学からの視察を受けて感じたこと、チームビルディングの手法をご自身の専門講義や研究活動にどう応用しているのか、そして、この取り組みを今後どのように発展させていきたいかについて話を伺いました。


※神戸常盤大学の「まなぶる」の取り組みについてはぜひ過去の掲載記事もご覧ください。→学校の組織開発物語/神戸常盤大学編


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――昨年、松山東雲の副学長が見学に来られた際に、大城先生のクラスで学生がトランプをしている姿を目撃したそうです。驚いて「今、休憩時間ですか?」と尋ねると、大城先生は「いえ、授業時間中です」と答えられたので、どういう状況か飲み込めなかったようです。その時、クラスで起きていたことについて教えていただけますか。


大城先生 ああ、ありましたね(笑)。その日はSPIの授業(まなぶるⅡ。まなぶるⅡではSPIを教科書にして、“計画的な学習”と“教えあい学びあい”をテーマにした、学科混成のグループ学習を行っている)だったんですが、学生たちに「これから授業に集中するための約束事を自分たちで考えてみて」と投げかけたんです。そうしたら、色々なアイデアが出てきまして。その中の1つが、「トランプをして集中する」というものでした。「トランプをやって1回勝ち負けが決まったら、そこから気持ちを切り替えて授業に集中する」という決めごとをしたグループがあったんです。



――なるほど。その時はSPIの授業だったんですけど、集中する前の段階だけご覧になった副学長はびっくりされたんでしょうね。でも、その時の大城先生のクラスは、授業後のテストの成績がダントツで1位だったんですよね。


大城先生 そうなんです。8回の授業を通して平均点が20点も上がるというすごいことを起こしてくれまして。他の先生からも、「なんでそんなことができたのか」と聞かれましたが、「わかりません。自由にさせました」と答えて(笑)。



――その「自由」というのも、放任ではなく、「学生が自分たちでルールを決めるという自由」ですよね。それを大城先生がうまくファシリテーションした結果だと私は感じました。

ファシリテーションや授業の進め方など、「まなぶる」で経験したことを大城先生ご自身の授業に反映したりしていますか?


大城先生 めちゃくちゃあります。自分の授業でも、「振り返り」をすごくやるようになりました。講義というのは、本当は90分間教員が喋って専門分野の知識を伝えるのがオーソドックスなのかもしれませんが、「まなぶる」を担当させていただくようになって、それって実は学習効果が少ないということを痛感しているんです。実際に自分の授業に「振り返り」と「グループワーク」を入れてやってみたんですが、やっぱり知識の定着力も全然違うんですね。



――具体的にはどのような変化がありましたか?


大城先生 例えば、「少子高齢化における少子化対策」についての講義をする場合、以前は法律の名前をバンバン出して、「これ覚えなさいよ」っていう暗記型の授業をさせていたんです。最後に小テストをしていたんですが、やっぱり、法律や制度など覚えることが苦手な子はかなり点数が低かったんです。

ですが、そこに、「なんでこの制度はできたんだろう?」「この法律の背景や意味は何だろう?」「このことは自分にどんな関係があるのか? 周りの人たちと話し合ってみよう」ってグループワークをして、そのあとでクラスで共有したりして。そのプロセスを経て最後にテストをすると、平均点が10点以上上がったんです。つまり、学習成果が目に見えて高くなったってことなんです。



――すごい成果ですね。その講義は受講生何名くらいの規模のクラスですか?


大城先生 80名くらいいる講義形式の授業でも、そのスタイルでやっています。



――大講義室でもグループワークを?


大城先生 はい、グループワークにしますし、それが物理的に難しい場合はGoogleフォームを作って、リアルタイムでコメントを送ってもらって、前にプロジェクターで映し出して。ライブ感っていうんですかね、みんなで共有できるようにしています。

さらにそれを見ながら、「こういう意見があるけど、これを受けてあなたはどう思いますか? じゃあ隣同士で話してみよう」といって話し合ってもらったりして。極力、自分の一方通行の授業はやめています。



――それで知識の定着も図れるっていうのを、先生ご自身の授業中で確認できているということですもんね。


大城先生 私もやってみてびっくりしました。「教える」ことだけが正解じゃないんだなと。



――多くの先生に「まなぶる」のような体験をしていただいて、「教え込むのも悪くはないけど、それ以上に効果的な方法あるよ」っていうことも、もっと広がっていくといいですよね。

次に研究面についてですが、「まなぶる」での気づきや、他学科の先生とかかわりができたことで、大城先生ご自身の研究にも影響はありますか?


大城先生 松山東雲女子大学さんの見学の時にもお伝えしたんですけど、一番は、「研究の価値観」とか「研究の幅」がものすごく広がったということです。

その理由としては、医療系など全然違う分野の先生とも話をするようになり、共通しているところや、反対に研究手法や学会のスタイルが違うことを知れたりしました。他の学会のいい取り組みは、自分の所属学会の研究グループで提案したこともあります。



――具体的にはどのようなことでしょう?


大城先生 細かいことなんですが、私が所属している研究グループは歴史的な分野が強いので、「対面開催が当たり前」となっていました。でも、他の学会ではオンラインも併用してたり、ハイブリッドにしていたりしていることを教えてもらったんです。そこで、ITに強い先生にオンラインシステムを使ったハイブリッド開催の方法をレクチャーしていただいて、それをそのまま自分の研究グループに伝えました。これはすごい刺激になりましたね。

学会全体を動かすような大それたことでなくても、分科会とか小さな研究会でそういう手法を紹介して、「来られない人もオンラインで繋いだら、対面でなくても研究会できるよね」っていうことで、開催頻度が多くなりました。



――研究そのものへの影響などもあるのでしょうか。


大城先生 私は大学院時代からずっと文献研究が中心で、フィールドワークや調査研究は未経験だったんです。でも、「まなぶる」の仲間の先生に質問したら、アンケートの取り方など調査研究のやり方を、ド素人に教えるような感じで1つ1つ丁寧に教えてくださって。おかげで、健康イベントの来場者へのニーズの聞き取り調査や共同研究もすることができました。コンテンツチームの先生とも、来年は初年次教育学会で研究発表するのを目指しています。



――ちなみにどんなテーマを予定されているのですか?


大城先生 同じチームビルディングを体験しても、学科によって何か違いがあるかもしれないので、そこを研究できたらいいなと。学科によって、「ここはすごいけれど、ここは足りない」など、特徴が出ればいいなと思っています。



――なるほど、面白いですね。自分たちの授業を研究対象にして、学生の学ぶ姿勢を客観視して、その結果をまた学生にフィードバックできたら最高ですね。

大学の教育は教員が「個室文化」によって成り立っている部分が多いですが、私は「個室文化」のいいところは残しつつも、その閉じたところをこじ開けていくところにこそ、大学教育の伸びしろがあると思っています。「まなぶる」を見学された松山東雲女子大学の先生も、教員が自分の授業をオープンにして意見交換しあう様子が印象的だったようです。

私たちは大学内だけでなく、今回のように大学同士の授業見学や知見の学びあいの場も増やしていきたいと考えています。大城先生は、松山東雲女子大学の方との交流で学べたことはありますか?


大城先生 「入学予定者に対する課題」についての話は面白いなと思いました。松山東雲さんでは、各先生の専門分野を活かして入学予定者に課題をセッティングして、その課題を「学びのポートフォリオ」として1つのファイルに閉じて提出してもらうそうなんです。そのスタイルが刺激的で、神戸常盤でもできたらいいなと思いました。

よく光成先生(「まなぶる」設立の中心人物)が、「医療系や子ども、教育系など、いろんな分野の先生が集まっているから、いろんな刺激があってフランクに話ができるんだ」とおっしゃっています。松山東雲女子大学さんに教えていただいた課題の提供の仕方などは、神戸常盤に合うんじゃないかと思っています。



――「私たちも見学に行きたい」とおっしゃっていましたよね。


大城先生 はい、実際に教室の授業も拝見してみたいですし、学内の風景も見てみたいです。松山東雲の職員さんは事務局を見たいということで、今回少しだけご案内したんですが、学生支援課の方が、うちの就職パンフレットの掲示の仕方にすごい反応されていて、「これうちもやりたいわ」とおっしゃっていて。オフィスの配置一つをとっても、すごく驚かれていましたから。逆に松山東雲さんではどうなのか、学生にどんな対応をしているのかなども見てみたいなと思いました。



――長らく「まなぶる」に携わっておられる大城先生ですが、最後に、今後取り組んでみたいことがあれば教えてください。


大城先生 ありがたいことに8年も携わらせていただいているので、卒業後の学生たちにどんな成果として「まなぶる」が活かされているかを可視化したいなというのはすごく思います。

そして、チームビルディングをベースにしたこれだけのコンテンツやワークを持っているというのは他大学にない強みですし、それをもっともっと外部へ発信できたらいいなと思っています。国内にとどまるのはもったいないなと。あとは、コンテンツ制作にも携わらせていただいたので、このノウハウをまとめたマニュアルやテキストを作れないかなと思っています。



※肩書・掲載内容は取材当時(2025年11月)のものです。

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大城先生のお話で私が最も興味深くうかがったのが、他の人が見ると一見放任に見える授業も、学生たちに自分たちでルールを決める自由を与えて、自分たちで規律を作るファシリテーションをされていらっしゃる、というところでした。その結果、大城クラスはどこよりも好成績をたたき出したわけですから、DeciとRyanが言うところの自己決定理論におけるモチベーションの源泉の一つ、「自律性」がとても大切なんだということだと思います。

一方、大城先生のこの取り組みの話は、実は松山東雲女子大学の副学長(当時)が見学されたことで明らかになりました。大城先生のクラスを覗かれた際に「授業中にトランプをしていた」と驚いておられて、そこで大城先生に詳しくうかがってみると「学生がメリハリをつけるきっかけを自分たちで決め実行する」と言うある種のルールを学生らが作るように促していたということがわかったのです。

まなぶるの面白さは、クラスごとに教員が様々に工夫された自由な運営をされていることだと思います。一方で課題の一つは、その工夫は実際に見ないと簡単には共有されないということもあるかと思います。今回の松山東雲女子大学さんの見学のような他者からの視点は、そうした課題も解決できるきっかけになるのでは、と感じました。

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