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学校の組織開発物語

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連載1-1/「まなぶる」8年目の進化論。教員と職員が共に汗をかく「教職協働」の現場【特別編 大学の学びあい】

  • odlabo
  • 2 日前
  • 読了時間: 10分

神戸常盤大学で2017年から実施されている初年次教育科目「まなぶる▶ときわびとⅠ・Ⅱ」(以下「まなぶる」)。全学科の学生が混ざり合ってグループワークを行い、異なる学科の教員・職員がペアを組んでファシリテーションを担当する、「学科ごちゃまぜスタイル」を貫く、とてもユニークな授業です。当サイトでは2019年にも同大学を取材しましたが、それから5年。この取り組みはどのように進化しているのでしょうか。


今回は、松山東雲女子大学の教職員グループが同大学を視察に訪れたことをきっかけに、【特別編 大学の学びあい】と称して、改めて「まなぶる」の現在地にスポットを当て、開かれた学びの場と大学間交流の様子をご紹介したいと思います。


最初にご登場いただくのは、前回の取材にもご協力いただき、現在は授業コンテンツの設計を担う中心メンバーでもある大城 亜水先生(こども教育学科 講師)。学科改編に伴う運営の変化、教員と職員が共に授業を作る「教職協働」の副産物、そして運営チーム自身のチームビルディングが生んだブレイクスルーについて、話を伺いました。


※神戸常盤大学の「まなぶる」の取り組みについてはぜひ過去の掲載記事もご覧ください。→学校の組織開発物語/神戸常盤大学編


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――長らく「まなぶる」にかかわっておられる大城先生に、改めてその概要や、前回の取材以降に起きた変化・進化についてお聞かせいただいてもいいでしょうか。


大城先生 基本的な枠組みは当時と同じです。1年生は学科横断でグループをつくってグループワークを行い、クラスを担当する教員も異なる学科の教員がペアになってファシリテーションを行うという仕組みは変わっていません。

変化した点としては、大学の学科改編によって、当時の短大の学科が大学の口腔保健学科になり、さらに診療放射線学科が新たに設置されたので、現在は全5学科体制になっています。それに伴いクラス数も増えています。現在は学生数が400名ほどで、1クラス約30名×13クラスという規模感です。1つのクラス内では学科の異なる学生5~6人でグループを編成し、1クラス5~6グループで授業を行っています。



――規模が大きくなっても、「全学科ごちゃまぜ」の体制は維持されているのですね。


大城先生 はい。准教授以下の先生方に、自分とは違う学科の先生と2人1組でペアになってもらってクラスを担当していただいています。新しく入られた先生にとっては、この授業の運営自体がFDも兼ねているので、必ず経験者の先生とペアになってもらうようにしています。



――「まなぶる」では職員の方も授業に参加されていますよね。


大城先生 はい。「まなぶる」のシラバスの内容は、特定の専門分野に基づく教育という枠組みではないので、教職協働で行うことができます。毎年、職員の方も2~3名参加してくださって、教員とペアを組んで一緒にクラスを担当しています。



――職員と教員がコミュニケーションを取ることは、双方にメリットがありますよね。


大城先生 それはとても大きいです。正直なところ、以前は教員の立場でしか物が見えていないこともあり、例えば書類を提出しても事務方の対応が遅く感じてしまって、「一体何をしているんだろう?」と不思議に思うこともありました。

しかし、一緒に活動して職員さんに話を聞くと、「必要な手順と段取りがあるので、これくらいの時間がかかるんです」と事情を教えてくれるんです。そうするとこちらも、「なるほど、じゃあこういうタイミングで提出したらスムーズに進むな」と理解できます。

反対に職員さんからは、「先生方は忙しそうで、どのタイミングで話しかければいいかわからない」と、いつも気を遣っておられると聞きました。そこで、「この時間帯なら大丈夫ですよ」とこちらの都合もお伝えできる。そんなふうに、お互いに「まなぶる」以外の自分の業務についても相互理解が進んで、仕事がスムーズにできるようになるという利点はものすごくありますね。



――私には、参加される職員の方の人選や役割もしっかり考慮されているように見受けられます。今年も職員のお一人は、地域交流の部署の方ではなかったですか?


大城先生 はい、おっしゃる通りです。一人はボランティア活動のリーダーをされている職員さんですね。



――職員の方も学生と1年のうちから関わる機会があれば、大学が行う学内外の活動の際にもメリットがありそうですしね。以前は保健室の先生なども参加されていたと記憶しています。悩みを抱える学生さんや、合理的配慮が必要な学生さんへの対応なども、そうした職員さんが入っていることで非常にスムーズに連携されているように思います。

次に、授業の構成についてもご説明いただいてもいいですか?


大城先生 前期の最初の4回は、ラーニングバリューさんの協力のもと、チームベースドラーニングのワークによる徹底したチームビルディングを行い、その後の11回でスキル系の授業を行うように設計しています。



――具体的な授業の内容はどのようなものでしょうか?


大城先生 1年前期は、まずロジカルシンキングのワークを行い、その後にディベート、プレゼンテーションといったスキル系の授業を行っています。

1年後期は、学生も教員もメンバーチェンジを行い、「計画的学習と協働学習」というキーワードで、SPIの本を教材にして、教え合い・学び合いというのをワークに入れてやっています。前回の取材時は1年間同じメニューの授業をやっていたので、そこが大きな変更点ですよね。



――私がすごいなと思ったのは、これが上からの指示ではなく、「まなぶる」を担当している先生の中から、「後期も前期と同じようにやるんじゃなくて、こういうことやりませんか」と現場からアイデアが出てきたことなんですよね。それを発端に、「単に数的処理能力を教えるんじゃなくて、チームビルディングを使って教え合い・学び合いをやったらどうだろう」というように発展していった。

SPIを使うようになった背景について私から補足させていただくと、国家試験合格には数的処理能力が必要なんですが、理系学科であっても数学に苦手意識を持つ学生さんもいることから、取り入れることになったんですよね。SPIは言語/非言語のうち非言語の方だけ使っていますよね。


大城先生 そうです。学生の中には、家具を買っても説明書を読まずに組み立て始めるようなタイプも多いですが、国家試験対策って、そうものじゃないですよね。ちゃんと計画を立てて、自分はどんなふうに勉強して、どうやってモチベーションを上げるかというのを考えないと、到底4年生まで勉強を続けられないんじゃないか。そういう思いから、SPIを活用したコンテンツが生まれました。



――私の目には、最初のうちは、「まなぶる」を立ち上げた光成研一郎先生(教育学部 こども教育学科長 教授/2019年取材記事)が自分に近い人に「まなぶる」の業務を頼んでいるように見えました。それが、いつのころからか、シラバスの設計をする「コンテンツチーム」と、授業で使う教材プリント等を用意する「準備チーム」と、評価の仕方を考える「評価・アセスメントチーム」へと役割分担されていったんですよね。

外から見ていた私には、中心メンバーで作っていくうちに、自然と組織内で役割分担が行われていったように見えて、非常に興味深かったです。大城先生も2020年からコンテンツチームに入られて、「まなぶる」の授業内容の設計に携わっておられますが、これまでには相当なご苦労もあったのではないですか?


大城先生 そうですね。コンテンツチームを京極先生と2人で担当していた時は、「そもそもロジカルシンキングって何?」みたいに、私たち自身もよくわかっていないのに、それをどう学生にわかりやすく伝えたらいいんだって迷路に入ってしまって。毎年ワークも変えていたし、それを他の先生方にお伝えしてご理解いただかないといけないし、さらに直前で変更することもあって、先生方も多分戸惑われていたと思うんです。

打ち合わせをするにも、京極先生の表情がもう本当に暗くて(笑)。2人とも1時間以上黙り込んでしまうような悶々としていた時がありました。もう限界だ、というタイミングでT先生とF先生という2人の若手の先生がブレストに参加してくれたんです。京極先生が「無責任でもいいから何か言ってほしい」と促すと、2人からいろんな意見が出てきて、それがすごく良かったんです。



――一生懸命考えたことに対して批判的なことをいわれたら、普通なら反発してしまいそうですが、そうはならなかったんですね。


大城先生 私たちは、他の人の意見に飢えてたんですよね。しかも、T先生は元小学校の先生、F先生は元高校の先生なんです。私も京極先生も教育学部に所属していますが、ずっと研究職で現場に出たことがなくて、理論はわかっても、「実践する」とか「子どもに伝える」というところでは圧倒的に経験不足なんですね。それを補ってくださったのが、お二人でした。私たちのコンテンツにはなかった視点を補ってくださって、さらに新しい「まなぶる」のコンテンツが生み出されたって感じです。



――大学って基本は個室文化で、教員間で隔たりを感じることも多いですよね。でも、教員のチームビルディングが進めば、異なるキャリアや専門を活かし合うこともできるはず。さらに実務家教員も増えていますし、研究者と実務家のやり取りも、もっと増えればとても有意義だと思います。大学教員の個室文化って、こういうお互いの強みを眠らせている、もったいない状況にある気がします。

あと、評価・アセスメントにおいても「まなぶる」ならではのポイントがありますよね。


大城先生 シラバスは同じでも、クラスごとに担当教員が違うので、どうしても各教員の評価にばらつきが出てしまいます。それは学生の不公平に繋がってしまうので、基準に則って評価をしてもらうのですが、その共通の基準を考えるのが評価・アセスメントチームです。



――共通の基準を考えるだけじゃなくて、その結果をみんなで共有するので、「◯◯クラスの◯◯先生はちょっと評価が甘いみたいですね」みたいなことも明らかになるんですよね。


大城先生 そうなんです。私も、めっちゃ言われました(笑)。



――そうやってフィードバックしあうことで、評価軸もピシッと揃うようになっていったんですよね。10数クラスを異なる教員が担当しても評価基準が揃えられたという結果を、ある学科の先生が国際学会で発表して、学会賞を取られたこともありましたよね。


大城先生 教員が主観的に見てしまうと、どうしてもパフォーマンスが大きい子しか目に映らないとか、逆に口数が少ない子が本当は縁の下の力持ちとして頑張っていたのに正当な評価にならないとか、そういうことも実際にありましたし。



――グループワークの評価は難しいですが、評価の公平性を追求することに組織として取り組んでおられることも「まなぶる」の特筆すべきポイントかと思います。

「まなぶる」開始から8年になり、学生さんの変化や何らかの成果として感じられるものはありますか?


大城先生 「満足度何パーセント」のような完全な数値化はできていなくて、肌感覚の話にはなるんですが、卒業した学生たちと話す時には、思い出話として必ず「まなぶる」が出てくるんです。4、5年前に卒業した学生も「今でもまなぶるのメンバーとご飯に行くんです」と言っていたので、本当にうれしいですよね。

あと、就職活動にも役に立っているようです。履歴書に長所を「コミュニケーション能力」と書く学生は多いですが、面接で具体例を聞かれたときに、「まなぶる」の体験を話すそうです。「1年生の時から、しかも他学科のメンバーで協働して課題に取り組んだ」というエピソードはインパクトがあるようで、一般企業はもちろんのこと、保育園や幼稚園の先生からの評価も高いそうです。


※肩書・掲載内容は取材当時(2025年11月)のものです。

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