連載2/「教員の学びあい」が学生を変える。他大学見学で見えた可能性【特別編 大学の学びあい】
- odlabo
- 1月13日
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松山東雲女子大学(愛媛県松山市)は、愛媛県松山市にあるキリスト教系大学です。現在、四国で唯一残る女子大学ですが、2028年の男女共学化に向けて、新たなイノベーションの実現に取り組んでおられます。
少人数教育を活かした教員と学生の距離の近さ、丁寧な学習・生活支援を強みとしている。一方で、控えめで消極的な学生が多いことを課題と感じておられます。 学生の「主体性」をいかに育むか。そのヒントを求め、2025年10月、教職員11名で神戸常盤大学を訪問、初年次教育「まなぶる▶ときわびと」(以下「まなぶる」)を見学されました。
そこで彼らが目にしたのは、学生の主体性を促すために教員チームが専門の枠を超えて協働し、試行錯誤しながら学びあう姿でした。今回は、見学に参加したお一人である鏡原崇史先生(人文科学部 心理子ども学科 子ども専攻 准教授)にインタビュー。見学で得た気づきと、それを自大学でどう展開しようと考えているのかを伺いました。

――まずは、鏡原先生の専門分野と、松山東雲女子大学に着任された経緯についてお聞かせください。
鏡原先生 私は大学院で博士号を取得後、すぐに本学に着任し、今年で6年目になります。専門は発達心理学、特別支援教育で、公認心理師の資格も持っています。特に障がいのある子どもの支援を専門としており、最近は幼稚園や小学校で、障がいの有無に関わらず、その子に応じた教育方法を構築する支援をしています。
――先生の目からご覧になると、松山東雲女子大学はどんな大学ですか?
鏡原先生 ここまで丁寧に学生に関わっている大学は他にないだろうと思います。例えば、課題提出が遅れている学生に教員が個別に連絡を取ってフォローするなど、普通の大学では考えられないかもしれません。しかし、少人数・小規模の大学だからこそ、こうした丁寧さを大事にすべきだと感じています。
――「丁寧なサポート」をどのような仕組みで実現しているのですか。
鏡原先生 1年次から4年次まで7~10名程度の少人数ゼミが必修であることに加え、メンター制度として、先輩が後輩に実習に関するアドバイスなどを行う機会を年間2回程度設けています。こうした縦と横の繋がりも、丁寧な指導の基盤になっていると思います。
それに、教員と学生の距離が非常に近いですね。子ども専攻では1学年50名に対し、教員は7~8名。ほぼ全員の顔と名前が一致しています。50m先からでも学生が「先生~!」と手を振ってくれるような関係性を築けているのは、少人数だからこそだと思います。何か困ったことがあればすぐにゼミの先生に相談できる環境ですし、私たち教員間でも、気になる学生の様子は常に共有しています。
――教員間の連携も密なのですね。
鏡原先生 専攻会議は2~3週間に1回、学科会議は最低月1回あり、そこで情報を共有します。昼休みに集まって、合理的配慮が必要な学生さんへの緊急の対応を検討することもあります。本学の先生方は、そうしたことにも快く協力してくださる方ばかりです。
――2024年度はラーニングバリューもお手伝いさせていただいて、神戸常盤大学の光成 研一郎先生を招いて「教職員のチームビルディング」をテーマとするFDも行われましたが、先生も参加されましたか。
鏡原先生 はい、基本的に全員参加で、教職員のスキルアップという意味でチームビルディング研修を受けました。印象的だったのは、教員と職員が一緒にグループワークを行ったことです。大学運営において、教員と職員の関係性は非常に重要です。そこを繋げていくという意味で、あえて分けずに実施したのは大事なことだと感じました。
――2025年10月には神戸常盤大学の「まなぶる」見学が行われました。これはどのような経緯だったのでしょうか。
鏡原先生 おそらく学長の水代仁学長の発信によって実施されたものだったと思います。「他大学における学生のチームビルディングや主体的な学びの事例を見たい人はどうぞ」という任意参加の形で案内があり、私はぜひ見てみたいと思い参加しました。
――「まなぶる」を実際にご覧になって、どのような印象を持ちましたか?
鏡原先生 正直なところ、私は教育学が専門なので、学生の動きや学び方自体に関しては知っている範囲内であり、驚くほどの先駆性というわけではありませんでした。 それよりも、ものすごく良いなと感銘を受けたのが、学生が学びに向かうまでの「教職員の動き」の部分です。
授業の前に、さまざまな学科の教員、時には職員も混ざって「学生の主体的な学びをどう高めるか」と議論されていました。また、授業運営を異なる学科の教員がペアになって行う。多様な組み合わせがあることは学生の学びにとってプラスになりますし、同時に、学内でいろんな業務を運営していく上でも非常に良い影響があるだろうと感じました。
――水代学長には、見学会の1年ほど前(2024年10月、当時水代先生は副学長だった)に「まなぶる」を見学していただいたことがあります。その時に、鏡原先生と同じような感想をおっしゃっていました。「プログラム自体は本学の学生でもできるかもしれないが、授業の事前事後に教職協働の学び合いの場をもてるかどうか、ちょっと想像がつかない」と。その時の驚きが見学会の実施につながったのだと思います。大学って先生方それぞれに研究室があり、「個室文化」が強い側面がありますから。
鏡原先生 おっしゃる通りです。大学教員は「個室文化」で、それぞれが個人事業主のように独立しており、互いに影響を与え合うのが難しいので。高校までは全員が教員免許を持っているので教育の質がある程度担保されますが、大学の場合、教育系以外の学科では「教えること」が専門でない方も教壇に立たれます。そうした場合に、専門が違っても授業がうまい先生と組むことで、その人の教えるスキルも上がっていくのだろうなと。どの大学でも課題になっているであろう「授業の質」の問題の解決においても、「まなぶる」のような異分野の教員が協働する仕組みは良いだろうと思いました。
――教え方マニュアルがあると、どうしてもそれに頼ってしまいがちで、「私はここまでやりましたが、あとは学生ができないのが悪い」になるかもしれません。「まなぶる」では、先生各々に工夫の余地があり、さらに「ふりかえりとわかちあい」をすることでお互いが混じり合い、新しいものが生まれる良さもあるんですよね。
鏡原先生 そうですね。固定観念にとらわれない教育方法は、大学だからこそできることだと思います。
――見学後のみなさんからは、どのような声があったのでしょうか?
鏡原先生 「職員さんも授業に入っていたのが面白かった」という声が多かったです。自分の大学でどんな教育が行われているかを職員自身が知る機会として、非常に興味深いという意見でした。
――職員の方も、学生の成長や主体性が発揮される場面に立ち会うと、仕事がもっと面白くなるかもしれませんね。見学を経て、何か今後につながりそうなことは見つかりましたか?
鏡原先生 模索している段階ですが、副学長を中心に、学生が主体性に学びに向かう力を高めるために何かできないかを考えているところです。本学は地方の女子大ということもあるのかもしれませんが、非常におとなしくて消極的な学生が多いのが課題になっています。
「地域に必要とされる大学」を目指していることから、学びの場所がキャンパスだけにとどまらないようにするため、ボランティアなど地域における課外活動も推奨していますが、継続的に参加する学生と、そうでない学生が分かれてしまっているのが現状です。座学だけでなく、地域の人と関わったり、地域の企業に入って課題解決に取り組んだり。まずは、学びに興味を持つ下地づくりが必要だと感じています。知ること、学ぶことが楽しいという基礎ができれば、社会に出ても主体的に学んでいける人になれるはず。興味があるものに自分から関わっていける人材を育てたいんです。
――取り組みについて何か具体的なイメージはありますか?
鏡原先生 僕としては、グループで何か一つのプロジェクトを推進していくようなものに取り組んでみるのが面白いのではないかと思います。その導入段階で地域の方や学生同士で関係性を築くために、協調性やコミュニケーション能力といったチームビルディングの要素は不可欠です。学生という、失敗が許される今のうちに、様々な経験をする機会を設けたいと思っています。
――そうした新しい取り組みを大学全体で進めていく上で、先生方の力量も問われると思います。鏡原先生ご自身は、どのように学生と向き合っておられますか?
鏡原先生 個人的にはそこが最大の課題だと感じています。ありがたいことに、私のゼミは毎年希望者が多いのですが、その一方で、内容は恐ろしく厳しいんです。卒論も統計解析も、未経験の学生が自分でプログラムを組めるレベルまでやります。それでも学生がやりきってくれるのは、おそらく私との「関係性」ができているから。それをつくるために、私なりにいろんな仕掛けをしています。
私は心理師であり、教育学も専門なので、ある意味、感覚的にできている部分があります。それが僕単体で終わってしまっては意味がないのですが、全体に広げるためにはどう伝えたらいいのか、課題を感じています。
ただ、個人的に思うのは、「先生の言うことだから聞く」という状況は作りたくない。立場で強制するのではなく、「この人は自分のことを考えてくれている」と学生自身が感じ、そのアドバイスを聞くかどうかを自分で判断する。それが理想です。本学の先生方は皆、学生に丁寧に接しているので、他の大学よりは、そうした関係性を築きやすい環境ではあると思っています。
――見学では「職員との連携」もキーワードでしたが、今後、教職協働についてはどのような可能性を感じていますか?
鏡原先生 大学教員は一つのことに突出した能力を持つ人が多い反面、視野が狭くなりがちです。そこに職員の方々の視点が入ると、学びの多様性はもっと色とりどりになっていくはずです。現状、多くの大学で職員の方が教員に意見しにくい環境だと思うんです。でも、関係性があれば、「こんな活動が面白いのでは」と提案できて、もっと広い視野で新しいことができるのではないか。これから大学が生き残りをかけて動く中で、さまざまなアイデアが必要で、教職が一つのチームとして学生を支えていく環境は必要です。
――個室文化に風穴を開けることができれば、学内のコミュニケーションに変化も生まれそうですよね。
鏡原先生 教員も職員もミスはします。その時、お互いを全く知らなければ叱責に繋がるかもしれませんが、人間関係があれば「いいよ、いいよ」と許容できることもある。心理師の視点からは、きっとそんな小さな人間関係から組織は変わっていくんだろうなと思っています。そういう意味でもチームビルディングは非常に有用だと感じています。
――チームビルディングをテーマにしたFDを経て、学内では何か変化が起きていますか?
鏡原先生 学生においては、昨年から「リンクプログラム」というグループを立ち上げ、チームビルディングの面でラーニングバリューさんに協力していただいています。これは学生が主体となってオープンキャンパスの企ジ画や運営を行う活動です。教員の模擬授業だけで終わらないように、高校生に楽しんでもらえるアイスブレイクを行うなど、学生目線で工夫してくれています。回を重ねるごとに司会も上達しており頑張ってくれています。
ただ、教職員のチームビルディングに関しては、まだ「必要だよね」という認識段階で止まっているのが現状です。
――学生の動きが、教職員の刺激になり、教職協働で学び合う姿を見せられるようになるといいですね。
※肩書・掲載内容は取材当時(2025年11月)のものです。

昨年度(2024年10月)、松山東雲大学の水代学長先生(当時副学長)が神戸常盤大学の「まなぶる」を見学された時もそうでしたが、鏡原先生も「まなぶる」の教材や中身ではなく、担当の先生方が授業前後に一堂に会して、様々な情報交換やふりかえり・わかちあいをしながら授業の準備を進めていることに、大変興味を持たれていらっしゃいました。鏡原先生とのインタビューの中では、何度か大学の“個室文化”に関するやり取りがあったのですが、「まなぶる」の風土や文化の中に、その“個室文化”の雰囲気とは全く違ったものを感じ取られたのだと思います。

大学には様々な専門分野の教員が集まっておられます。同じ学部や学科の中でも、全く違う分野を研究されていらっしゃる方々が集まっておられ、その多様性の高さは大きな特徴ではないかと思います。ただ一方で、それぞれの教員が研究室と言う個室の中に籠っておられ、共同で何かを行う機会があまり無いようにも見えます。初年次教育が、大学教員の多様性の高さを活かし、大学に実際には存在しているにも関わらずまだあまり使われていない集団としてのパワーを活用するための取り組みになっている。神戸常盤大学の「まなぶる」はそんな意味を持っているのかもしれません。そしてそのための仕掛けが、チームビルディングと言う概念の教員への浸透である、と我々は強く思っています。



